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  *
「優ちゃん、ほんっっっっと結婚なんかしなくてよかったよ!
これ、結婚してたら、もっと大変なことになったかもしれないよ!」

いつものイタリアンカフェの一席で、美保は、コーヒーを片手に、少し興奮気味にそういった。
ケイの病院にいく時間もあったから、ちょっとだけ腕時計を気にしつつ、あたしは、思わず苦笑してまう。

「うん・・・あたしも、そう思った。
なんか、横領じゃなくて、詐欺なんだってね・・・知らなかったよ」

「そうみたいだねぇ・・・やっぱ、あれだよね・・・きっと、そのキャバ嬢にでも貢いでたんだよね、きっと。
それにしたって・・・ほんとにさぁ・・・人って見かけによらないっていうか・・・」

「ほんとだよね・・・あたし、ほんとに、全然気付かなくて・・・なんか、馬鹿だったなぁってさ・・・」

「仕方ないよぉ・・・でも、ギリギリで別れてよかったよ、ほんと。
これで婚約とか結婚してたら、なんか、もっと大変なことになってたと思うよ、優ちゃん」

「結局あたしはさ・・・大ちゃんにとって、なんだったのかなぁ・・・?」

「優ちゃんは、なんでもうんうんって聞くタイプだから、最後の砦っていうか・・・
ほんとにぎりぎりで追い詰められたときの逃げ場所とか、そういう風に思われてたのかもね。そんなの、都合よすぎるけど・・・
これで、事件のことがバレなくて、その上、婚約とかしてたら、やっぱり、優ちゃんとかも、お金むしり取られてたかもね」

「うん・・・」

あたしは、重い気分になって、大きくため息をついた。
こんな状況で、ケイと一緒に住むことになったら・・・ケイに、迷惑かけちゃうかな・・・
別に気にしないとか・・・言いそうだけど・・・
とりあえず、2~3日泊めてもらうって感じで、考えようかな・・・
うつむいたまま、押し黙ったあたしの顔を、じーって覗きこんできた美保が、突然、ニコッって笑って、こう言った。

「そんな暗い顔しないでよぉ。大丈夫だよ、優ちゃんは何も悪いことしてないし、すごく正しい選択をしたんだよ。
なんかさ、会社で、変な噂してる人もいるけど、そういうのも、気にしたらダメだからね」

「うん・・・」

あたしは、小さく頷いて、またため息をついてしまう。
昨日、大輔の話しを聞いたときは、なんだか、どこか他人事のように思えてた。
でも、刑事さんに話しを聞かれたり、上司に事情を聞かれたり、こうやって美保に心配されたりして、まったくの他人事としてスルーすることもできないことなんだって、あたしは、そう思って、またしても、大きくため息をつくのだった。
そんなあたしを見て、美保は、気の毒そうに眉間を寄せて、ちょっとだけ神妙な声でこう言う。

「優ちゃん、村木さんのこと、なんか、今朝のニュースでもちらっと報道されてたから・・・
村木さんて大手じゃなくても、中堅のそこそこ名前が知れた会社の人だから、もしかすると、マスコミが面白がって色々書き立てるかもしれない・・・
もしかすると、そういうの、優ちゃんとこにもいくかもしれないから・・・
気をつけてね・・・」

心配そうな美保の顔を見返して、あたしは、もう一度、小さくうなづいた。
大輔の起こしたことは、あたしとは全く関係のないことなのに、そんな風に巻き込まれてしまったら、本当に、たまったものじゃない。
美保の意見も一理はある。

とりあえず、明日はケイが退院してくるし・・・
明日、会社に行ってみて、何か色々騒がしいようなら、また、有休取るとこも考えよう・・・
あたしは、そう思って、ため息をつきながら、コーヒーを飲んだ。

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