BitteR SweeT StrawberrY
   *
いまやあたしは、大輔の元カノなだけで、もう大輔とは全然関係のない存在だと思ってた。
あたしは周りに流されて、周りの意見が正しいと思って生きてきたけど・・・
本人じゃない、周りの他人というのは無責任なものだって・・・本当に思い知らされたのは、その日のことだった。

ケイは午前中のうちに退院してくるって言ってた。
とりあえずあたしは、2~3日分の着替えをバックに詰めて、会社に出勤することにした。
会社の前まで来たとき、あたしは、見知らぬ女の人に呼びとめられた。

「すいません」

そう声をかけられて振り返ったあたし。
そこに立っていたのは、丁度、あたしと同じぐらいの年のパンツスーツ姿の女の人だった。
その人は、ちょっとだけ笑って、バックの中から名刺を取り出すと、戸惑うあたしにそれを差し出して、こう言ったのだ。

「私、週間GAP!の記者で、高田と言います。突然声をかけてしまって、申し訳ありません。あの・・・失礼ですけど、押野優子さん・・・でいいですよね?」

「え!?」

あたしは、なんで週刊誌の記者さんに声なんかかけられたのか、なんでそんな人が、あたしの名前を知ってるのか、全然わからなくて、きょとんと、高田・・・と名乗ったその人の顔を見つめてしまう。
すると、高田さんはあたしに向かってこう言った。

「出勤前にごめんなさい。あんまり強引にはしたくないんで、もし、昼休みとか、時間あったら、ちょっと村木大輔さんについて、お話聞かせてもらえませんか?
ご存知ですよね?村木さんの起こした詐欺事件のこと?お付き合いなされてたんですよね?」

「・・・・・・」

そう言われて、あたしは、初めて事情を把握した。
この人、大輔の起こした事件について調べてる記者さんなんだ・・・
あたしは、体から血の気が引く思いになって、ハッと高田さんから目を逸らす。

「知ってますけど・・・でも、あたし、なんの関係もないですから!」

そう言って、あたしは、くるって高田さんに背中を向けて、早足で会社へと歩いていく。
そんなあたしの背中に向かって、高田さんはこう言った。

「きちんとした報道をしたいんです!ちょっとだけでもお話聞かせてください!
お願いします!」

あたしは、その声を無視して、さっさと会社の中に入ってしまった。
マスコミって・・・怖いって思った。
どうやって調べたか知らないけど、あたしの名前とか顔とか、あたしの通ってる会社とか、そんなことまで判ってしまうんだ・・・
顔を蒼白にして、タイムカードを押したあたし。
そんなあたしの後ろから入ってきた、違う部署の全然知らない男の人が、いきなり、あたしにこう言ったのだ。

「有名人だね~・・・貢いでもらってたんでしょ?金?」

「っ!?」

ぱっと振り返ったあたしを、その人は、なんだか悪意のあるニヤニヤした表情で一瞥すると、そのまま、さっさとエレベーターに乗ってしまう。
なんで、あたしが、全然知らない人に、そんなこと言われないといけないのか、全くわからない。
あたしは、逃げるようにして階段に向かい、そのまま、5階のオフィスに駆け込んだのだった。
同じ部署の同僚は、いたって普通で「おはよう」って声をかけてくれて、ちょっと安心した。

青い顔のまま、自分のデスクについたあたしだったけど、そんなあたしの隣に、ふと、課長が歩みよってくる。
あたしは、ハッとして課長の顔を見上げて、変な愛想笑いで「おはようございます」って言ってみた。
課長は、すごく気の毒そうな顔をしながら、あたしに向かってこう言ったのだ。

「今朝から、マスコミから、君に取材したいって電話が多くてね。

君が、あの事件に何の関わりもないのは判ってるけど・・・
これじゃ業務もまともに出来ないから、報道が落ち着くまで、休んでくれないかな?
有休まだ残ってるだろうし。今日は午前中で上がって構わないから・・・すまんね」

「・・・・・・・」

あたしは、椅子に座ったまま、しばらくフリーズしてしまう。
課長の言葉は、つまり、落ち着くまでは会社に出勤してくるなという、出勤停止勧告だ。
騒がしいときは、有給取ろうって思ってはいたけど、まさか、自分で申請しなくても、こんな形で、休みをとらされることになるなんて・・

あたし・・・
ほんとに・・・
なんの関係もないのに・・・
なんでこんなこと、言われないといけないんだろう・・・
あたしの頭の中は、一瞬で真っ白になってしまった。


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