BitteR SweeT StrawberrY
    *
ケイは、どれだけあたしをどきどきさせれば、気が済むんだろう?
お風呂に入りながら、あたしは、また一人でじたばたしてしまった。
大輔が飛んでもない事件を起こして、そのどばっちりをこうやって食っているのに、ケイの言葉一つで、こうやって、気分は上向きになってしまうし、気付くと浮かれてるし、きっとあたしは、物凄く単純なんだ。
我ながら、ほんとに馬鹿だなって思う。

とばっちりで出勤停止とかになってしまったけど、それでも、今日から・・・ケイと一緒に暮らせるんだから、雨降って地固まるとでも思っていればいい。
あたしは、変に気持ちがふわふわしてきて、なんだか一人でにやけながら、お風呂を出て、パジャマに着替えた。
ケイが、例え女の人でも、もうそんなこと、あたしには関係なんかないんだ。
だって、好きなものは好きなんだから、仕方ないもん・・・
そう思いながら、あたしがリビングへ足を踏み入れると、何故か、電気が消えていて、薄暗い中、ケイが、窓辺にもたれながら、カーテンを開けて外を見ていた。

一粒の苺をかじりながら、ただ、黙って窓の外を見てる、ケイの横顔。
あたしは、きょとんとして、そんなケイに声をかけた。

「あれ?どうしたの?」

あたしの声に気付いて、ケイは、ゆっくりとあたしを振り返ると、唇だけで小さく笑った。

「こっち来てみ」

「んー?」

あたしは、きょとんとしたまま、ケイの隣に歩いてく。
ケイの視線を追って、窓の外を見ると、そこには、丸くて大きなお月様があった。
電気を消していても、部屋の中を見渡せるぐらい、明るくて綺麗なお月様だった。

「満月なんだ~!綺麗だね!」

あたしの言葉に、ケイは黙ってうなずいて、ただ真っ直ぐに、明るい月を眺めてる。
あたしも黙って、そんなケイの視線の先をじっと見ていた。

今、ケイは、一体、何を思って、このお月様を見ているんだろう・・・
どのぐらい、治療の効果が出るか、次の検査を待たないとわからないこの段階で、ケイは一体、何を思って、こうやっているんだろう・・・
それを考えると・・・
あたしは、切なくなって、胸が締め付けられるように痛くなる・・・
だけど、あたしは、ここで泣いたら、いけないんだ。

どんなに不安でも、あたしが、ケイより先に泣くわけにはいかないんだ。
だからあたしは、精一杯笑って、こうケイに話しかけた。

「ここのとこ、こうやって、しみじみ、お月様眺めたことなかったなぁ・・・あたし。
仕事終わると、なんか、脇目も振らないで家に帰って、おじさんみたいに晩酌してたから」

その言葉に、ケイは、おかしそうに笑った。

「色気ないな」

「ないですね・・・」

「うん、相当色気はない・・・けど」

「ん?」

「優子に色気は求めてないから、大丈夫だ」

からかうようにそう言って、ケイはくしゃくしゃとあたしの髪を撫でる。
あたしは、むぅって唸って、上目遣いにじとってケイの綺麗な顔を見た。

「ひど~い・・・なにも、そんなにはっきり言わなくてもぉ・・・」

「いや、ほんとのことだから」

「ひどい!ほんとのことって言った!!」

「いや、だってほんとのことだろ?」

ケイはそう言って、あははって笑うと、お月様を見ていた視線を、ふと、あたしに向けた。
あたしは、そんなケイの視線を、拗ねて唇を尖らせながら、真っ直ぐに受け止めてみる。

その時不意に、ケイの顔に、心が痛くなるぐらい切なそうな微笑が浮かんで、あたしは、ハッとしてしまう。
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