BitteR SweeT StrawberrY
さらって布がすれる音がして、ケイは、ガウンの胸を広げて、どこか切なそうに笑った。
今まで、ケイは散々、あたしの体を見たけど、あたしは、ケイの体を見たことがない。

ケイは、あたしの体を綺麗だって言ってくれるけど、初めて見たケイの素肌は、ほんとに、透き通るみたいに白くて、すごく綺麗で・・・
そんなに大きくはないけど、形の良い右胸のふくらみ・・・
だけど・・・
その左胸に、胸のふくらみはなくて、代りに、骨の形がわかるぐらい、えぐれたような手術の痕が残っていた。
あたしは、言われるまで、全然、おっぱいが片方ないなんて、気付かなかった・・・
多分、いつも下着をつけていたせいだと思う・・・

でも、こうやって、時下に傷跡を見ると、心が苦しくなる。
言葉も出ないあたしに向かって、すごく冷静で静かな声で、ケイは言った。

「再建もできるって言われたんだけど・・・あえてしなかったんだ。
自分の体だし、これが現実だって、思ってたから。
まぁ、変な言い方だけど・・・悪あがきしたくないっていうか・・・」

「・・・・・・」

「優子にはさ、あんまり見せたくなかったんだけど。
でも、それでも、これでもアタシの体だし・・・・この際、全部見せておきたいなって思ってさ」

「・・・・うん」

あたしは、小さくうなずいて、唇を噛み締めた。

胸のふくらみを片方失くした時、ケイは、一体、どんな気持ちだったんだろう・・・
体の一部が・・・
消えてなくなってしまうんだもん・・・
切なかったはずだよね・・・・
いくら、男っぽい性格だって言っても、やっぱり、ケイは女の人で、その象徴みたいなものを、片方失ってしまったら・・・・
悲しいよね・・・
悲しいし、切ないよね・・・
その上、こうやって体の一部を取ってまで治したはずなのに、また、同じ病気で、苦しむことになるなんて・・・
世の中を、支配する神様は、なんて残酷なことをするんだろう・・・

あたしの心は、ぎりぎりと締め付けられて、気の毒とかそういう単純な意味じゃなくて、その時の、ケイの気持ちを思ったら、切なくなって、悲しくなって、気付いたら、目に一杯涙がたまっていた。
あたしは、そっと手を伸ばして、ケイの胸の深い傷跡に指先を触れた。
あたしが、超能力者で、人の病気を直すことができたら、自分の寿命なんてけずってもいいから、ケイの病気を治してあげるのに・・・

心が痛いよ・・・
何もしてあげられなくて・・・
無力すぎて・・・
心が・・・・
痛いよ・・・

泣かないって決めたのに、ケイより先に泣いたらいけないって、そう思ってたのに・・・
制御の利かないあたしの感情は、目から勝手に、涙を出させてしまった。
ぽろってあたしのほっぺに、涙が伝う。

「痛かったよね・・・・」

かすれた声でそう言ったあたしに、ケイは、しずかな声でこう答える、

「同情はされたくないよ。自分でこれでいいって思ってるんだから。同情だけはされたくない」

あたしは、ぶんぶんと首を横に振って、ぽろぽろと涙を零したまま、ケイの顔を見上げた。

「同情なんかしてないよ・・・・だた・・・・
ケイの代りに・・・泣いただけ・・・
きっと、泣きたかったよねって・・・・
でも、ケイは、そういうの我慢しちゃいそうだから・・・・
だから、あたしが代りに・・・泣いてあげたの・・・」

あたしは、両手を伸ばして、そのままぎゅうってケイの背中を抱きしめると、胸の傷にほっぺを寄せて泣いた。
ケイは、そんなあたしを、切なそうな眼差しで見つめている。
素肌から直接伝わる、あったかい体温が、あたしの心まで切ない痛みを運んできて、あたしの涙は、しばらく止まらなかった。
あたしの背中に、両腕を回して、ケイも、あたしをぎゅうって抱き締める。
あたしの髪にほっぺを押しつけて、ケイは、ゆっくり目を閉じると、小さな声でこう言った。

「ありがと・・・」

あたしは、首を横に振って、ますますぎゅってケイを抱き締める。
ケイは、ただじっとして、そんなあたしの髪にほっぺを寄せたままだった・・・
窓辺のお月様が見てる。

青い光の中で、あたしとケイは、しばらくそうやって抱き締めてあっていた。

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