BitteR SweeT StrawberrY
     *
あたしは今まで、きっと、こんなに誰かを好きになったことがなかったんだと思う。
こうやって、胸が苦しくなるぐらい、この人のために何かしてあげたいって思ったことも、何かしてあげたくても、何もできなくて、こんなに悲しくなることも、一度もなかった。
ケイは女の人で、あたしも女で、ものすごくおかしな恋なのかもしれないけど、それでもあたしは、ケイが好きで・・・
佐野さんには敵わないかもしれないけど、あたしは、ケイと同じ女だから、ケイの心の痛みは、きっと、佐野さんよりわかってあげられるはず・・・
あたしは、ケイが好き・・・
心が窒息するぐらい、ほんとに、好きで、好きで・・・
愛しくて、愛しくて・・・
ずっと一緒に居たいって思ってるこの気持ちは、正真正銘の本物・・・

窓辺のお月様が、素肌になったあたしとケイを見てる。
ケイは、何度もあたしの肌を見てるのに、あたしは、ケイの白くて透き通る肌を見るのは、初めてだった。

あたしは、片手でぎゅってケイを抱き締めて、痛々しい胸の傷に、ほっぺを押し当てた。
足も、体も、胸も、腕も、素肌で感じるケイのぬくもりは、ほんとにあったかくて、とっても、気持ちいい。
開いたカーテンから差し込む、月の光の中で、青白く浮かびあがる、柔らかくて綺麗なケイの肌と、そして、胸の傷跡。

この傷も・・・
この綺麗な肌から・・・
消してあげられたら・・・
いいのに・・・

あたしは、そう思って瞳を閉じると、ただ、じっと、その傷にほっぺを押し付けていた。
とくんとくんて、肌の向こう側から聞こえる、ケイの心臓の鼓動。
その音が心地良くて、愛しくて、あたしは、子供みたいに、ケイの体を抱き締めた。

ケイの視線が、そんなあたしを見てるのが判る。
それは柔らかく優しく、あたしを包んでいるみたいだった。

「ケイ・・・・」

あたしは、そう呼びかけて、ゆっくり目を開くと、月光の中のケイの綺麗な顔を見る。
ケイは、唇だけで微笑んで、まっすぐに、あたしの瞳を見つめてくれた。

「ん?」

「きっとね・・・」

「うん・・・」

「ほんとは・・・こういうのって、おかしいんだよね・・・」

「何が?」

「ん?・・・・こうやって・・・・うん・・・
女同士なのに・・・こんなことしてて・・・・」

「そうかな?」

「そうだよ・・・でも、でもね」

「うん」

「もうそんなこと・・・どうでもいいって思ってる」

「なんだそれ」

ケイはそう言って、おかしそうに笑うと、そっとあたしのおでこに張り付いた前髪を、指先で払った。
あたしは、ちょっとだけうつむくと、また、ぎゅってほっぺを、ケイの傷跡に押し付けて、言葉を続ける。

「ケイは女の人なのに・・・あたしは、こんなにケイのことが好きで・・・
そんなのはおかしいって思ってたんだけど・・・
なんていうか・・・もう、そういうのどうでもいいって・・・
だって・・・好きなものは好きだし・・・
こうやって、ケイに、触ってもらえると・・・嬉しくて・・・
それで・・・すごく幸せで・・・
だから、もう、おかしいとかおかしくないとか、そんなのどうでもいいって・・・
そう、思ってるの」

「そっか」

「うん」

「ほんとに、自己主張できるようなったな、優子は?」

「ん?そうかな?」

「うん・・・もじもじしないで、ちゃんと物言えるようになったじゃん?」

ケイはそう言って、そっとあたしの髪を撫でると、ぎゅって抱き締めてくれる。
あたしも、そんなケイをぎゅって抱き締め返して、思わず、えへへって笑ってしまった。

「だから・・・それは、ケイのお陰・・・」

「そうか?」

「そうだよ・・・」

すりすりとケイの肌に擦り寄って、あたしは、片手を伸ばして、ケイのほっぺを触る。
なんだか、どきどきするけど・・・どうしても、キスしたくて・・・

あたしは、ぷるぷるしたまま、もう一度目を閉じて、自分の唇を、ケイの柔らかな唇に押し当てた。
苺を練りこんだ生クリームみたいに、柔らかで甘い、ケイの唇。
マシュマロみたいにふんわりしてて、とってもあったかい・・・
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