BitteR SweeT StrawberrY
    *
大輔の起こした事件の関係で、あたしが取ることになった有給休暇は4日間。
もう、その半分が過ぎてしまう。
あたしが、週刊CAP!の記者高田さんの取材を受けたその日、ケイが帰ってきたのは7時ぐらいだった。
丁度ご飯の準備が終ったところで、我ながらほんとにナイスタイミングだと、あたしは、キッチンで一人にやにやしてしまう。
病院の図書室で借りた料理本で覚えた、免疫力を高める料理もばっちりだ!
薄手のコートを脱ぎながら、キッチンカウンターからそんなあたしを覗きこんで、ケイは、まるで珍しい動物を見てるような顔でくすくすと笑う。

「なに一人で浮かれてんの?おまえ、最近おかしいよ?」

ハッとしたあたしは、料理の盛り付けをしながらそんなケイを振り返って、思わず顔を赤くしてしまう。

「な、なんでもないよ!えと・・・ちょっと頑張って作ってみたから、食べてくれるかなぁ~って思って・・・あ!でも、あんまり食欲ないときは無理しないでね!」

そう言ったあたしを、綺麗でまっすぐな瞳で見つめて、ケイは、相変わらずくすくすと可笑しそうに笑いながら、こう言ったのだ。

「なるべく食べるようにするよ。そういえば、今日、ガクも来るってメール入ってたな」

「ほんと?!夕飯、大丈夫かな、おかず足りるかな?」

「何時にくるかはわからないよ。足りなそうなら、自分で買ってこいって電話しとくよ」

「ええぇ・・・それじゃぁ佐野さん気の毒だよ~」

あたしは慌ててジャーの中身をチェックして、ご飯の量を確かめる。
ケイはあんまり食べないし、三人分ぐらいなら、なんとかあるかな・・・
そんなことを思う自分が、ほんとに主婦みたいに思えてきて、あたしは自分で自分が可笑しくなってしまった。

自分の目標を見つけるって目標を達成するのもしかりだけど、こうやってまったり家事をすることも、なんだか悪くないなって変なことを考えてしまったりもする。
ケイは、あたしが変わったって言ってくれるけど、自分では、やっぱり、あたしの心ってどこかで軸が足りないんだなって思ったりもして。
ケイや、美保や、そして高田みたいに、仕事に生きがいを持ってる人はカッコイイけど、果たして、あたしがそうなれるかどうか、この時点では、あたしにまったく自信なんてなかったのだ。
ジャーの中身をチェックして、食器を棚から出してるあたしの背中に、カウンターの向こうから、ケイが突然こう言った。

「優子、桜が咲いたぞ~」

あたしは、ハッとしてケイを振り返る。
ケイは、なんだか子供みたいに笑って、あたしの目の前に掌を差しだした。
その白い掌の上には、淡いピンク色をした、小さくて可愛い桜の花束があった。

「あ!ほんとだ!ちょっとそれ飾っとこうよ!」

あたしは、すごく嬉しくなって、ケイの掌から桜の花を指先で受け取ると、白いお皿に水を張って、そこに桜の花を受かべてみる。
水の上でふわふわ漂う桜の花は可愛くて、あたしは、えへへって笑って、そーっとそのお皿をケイに手渡したのだった。

「テーブルに飾ってみようよ!なんか春らしい!」

ケイは、そんなあたしの瞳をじーって見つめて、ちょっとだけ首をかしげると、やけに穏やかに微笑ってこう言ったのだ。

「今度見に行こうか?桜?咲いてるうちに?」

「え?お花見?」

「花見っていうか・・・散歩?夜桜でもいいよ」

ケイはそう答えると、穏やかな表情であたしの手から桜の花の浮いたお皿を受け取って、それをテーブルの上に置く。
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