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そのまま椅子に腰を下ろすと、ケイは、」テーブルに頬杖をついて、なんだか子供みたいに、水の上でふわふわと揺れている桜の花を見つめていたのだった。
その横顔は穏やかで綺麗だけど、少し、寂しそうな横顔で・・・
もしかしたら、ケイは、来年はこの桜を見れないんじゃないかとか、そんなことを思っているのかな・・・
そう思ったら、あたしの胸はチクッと痛んで、変に不安になりそうだったけど、ここはあえて、笑ってみた。
飛び切りの笑顔で、あたしはケイに向かってこう言った。

「桜、どこに見に行くの？あんまり混んでるとこはいやだよね！
平日だったら、そんなに人もいないかな？」

「どうかな・・・行くんだったら、夜の夜中に夜桜とかも悪くないよ」
そう答えてケイはあたしに振り返ると、唇だけで穏やかに微笑する。

「そっか！それもいいね！ビールもって・・・あ、そだ、ケイは今飲めなかったね・・・コーヒーとかもって！行こうよ！」

「桜にコーヒーか！」

ケイは、あたしの返答を聞いてあははって可笑しそうに笑って細い肩を揺らす。

「ええ！？だ、だめかな！？」
あたしは、盛りつけたおかずをテーブルに運びながら、思わずそう聞き返してしまった。
その時、突然、玄関の鍵がガチャって開く。
あたしとケイは、同時に玄関の方に目を向けて、そして顔を見合わせると、二人そろってくすくすと笑ってしまった。

「佐野さんだ」

「ガクだ」

リビングのドアを抜けて、そこに姿は見せた長身の男の人は、本当に、案の定、佐野さんだった。
佐野さんは、片手にケーキボックスを持ったまま、くすくすと笑ってるあたしたちをきょとんと見つめている。

「おいおい、なんだよ、二人して？何こそこそやってんだ？？？」

「こそこそなんかしてないよ、ただ、夕飯時にタイミング良く来たなと思ってさ」

可笑しそうに笑ったまま、ケイは椅子に腰掛けた姿勢で佐野さんの長身を見上げる。
佐野さんは、なんとも腑に落ちない顔をしながら、ふぅってため息をついて、ケイの隣に立ってるあたしにケーキボックスを差し出したのだった。

「はいはい、それは申し訳ないですね。そんな訳でお土産な」

「わーい！ケーキだぁ！」
それを受け取って素直に喜ぶあたしを、佐野さんは、可笑しそうな視線で見やってから、片手を自分の髪につっこんでこう言った。

「小学生かよ！」

「優子の基本は、幼児だよ」

佐野さんの言葉に、ケイは、くすくすと笑ったままそんな答えを返す。
あたしは、そんなケイと佐野さんの顔を交互に見ながら、むぅって唸って、こう言い返した。

「ひっどーい！二人そろってぇ～！一応ちゃんと大人なつもりです！」

「あ～・・・そうでしたね」

佐野さんは、あたしをからかうようににやって笑うと、ケイの隣に座って、テーブルのおかずに目をやりながら言葉を続けた。

「うまそうじゃんこれ？優子が作ったの？つか、仕事上がりで腹減ってんだよね・・・・」

かくも図々しくそう言った佐野さんを見つめて、ケイがくすくすと笑ってる。
あたしは、はぁってため息をついて「じゃ！ご飯べよ！」って言って、ケーキボックスを持ったまま、もう一度キッチンに戻ったのだった。