BitteR SweeT StrawberrY
     *
夕方。
退勤を迎えたあたしは、ものすごく疲れきって、ケイの部屋へと戻った。
まだ帰ってないと思ったのに、ドアを開けると、何故か、ケイが帰って来ていて、リビングの床に寝転がって雑誌を読みながら、いつもの様に、苺を食べていた。
あたしは、リビングの入り口に立ってきょとんとしてしまう。

「あれ?ケイ???早いね??仕事、今日、5時上がりだっけ???」

ハンドバックを床の上に置いて、ジャケットを脱いだあたしを見上げながら、ケイは、唇だけで穏やかに笑って、こう答える。

「マナトに追い返されちった。
咳してたらさ、あいつ物凄い勢いで走ってきてさ、『無理しないでください!ここでケイさんに何かあったら、マジでこの店もたないから!』ってさ、泣きそうな顔で言うんだよ。だからさ、仕方なく」

可笑しそうにくすくす笑うケイを見て、あたしは、張り詰めていたものが解けたみたいに、ぺたんってその場に座り込んで、一緒になって笑ってしまった。

「あはは!新城さんらしいっていうか、なんていうか!心配されてるんだよ!
みんな、ケイのこと好きだしさ!無理して具合悪くされるより、ちょっとずるして元気になったほうがいいもん!」

「・・・・そんなもんかな?」

「そうだよ!」

あたしは、そう答えて、なんだか自然に笑顔になってしまった。
会社での嫌な出来事は、確かにあたしを傷つけたけど・・・
でも、こうやって、ケイの笑顔を見てれば、癒されるというか、安心できるというか、明日も頑張れそうというか・・・
とりあえず、会社でのことは、まだケイには黙っておこう。
どうしても我慢できなくなったら、その時は、相談乗ってもらえばいいよね・・・
ケイには、ストレスフリーで免疫力上げてもらって、元気になってもらわないといけないから。
あたしは、心の中で自分に気合を入れて、ケイの手元にあるフルーツ皿から、大粒苺を一粒取った。

「ケイは、ほんと苺好きだね!」

そう言って、口の中に放りこんだ苺は、すごく甘くて、でも、ちょっとだけ酸っぱかった。
ケイは、座り込んでるあたしの顔を、寝転んだまま見上げて、やけに穏やかに笑っていた。

「優子だって好きじゃん、苺」

「好きだよ~美味しいもん!」

あたしはそう答えて、真っ直ぐにケイの視線を受け止めると、またえへへって笑ってしまう。
床に頬杖をつきながら、片手を伸ばして苺を摘んだケイが言う。

「ああ・・・そうだ、桜、いつ見にいく?」

「そだね!いつ行こうか?満開になる頃がいいよね!綺麗だし!」

「夜行くなら、ちょっと散りかけたときだっていいんじゃないか?花吹雪、結構好きだけどな」

「おぉ!いいね!じゃぁ、あたし、カフェオレ作るから!ポットに入れてもってこうよ!」

「遠足かよ!!」

ケイはあははって笑って、摘んだ苺をぱくって自分の口の中に放りこむ。

「えーっ!?だめかな!?」

あたしは、きょとんとして、おかしそうに笑うケイの綺麗な顔を見た。

「いや・・・別にいいけどさ。なんか、変に堅実なとこが優子っぽくてさ」

「堅実かなぁ?」

「堅実だな!」

「そっかな?」

「そうだよ」

ケイはそう言って、ますます可笑しそうにくすくすと笑う。
そんなケイを見て、なんだかあたしも可笑しくなって笑ってしまった。
こういう時間て、なんだか、ほんと癒される。

めげないで、明日も、ちゃんと仕事いかないとね・・・
ケイには心配かけたくないし・・・
頑張ろう・・・
あたしは、そう心に決めて、もう一度えへへって笑って、フルーツ皿からまた苺を取ると、ケイの隣に寝転んでみる。
寝転んで物食べたらいけないって、子供の頃、よくお母さんに叱られたけど、別に、もういいよねって、そんなことを思って、あたしは、ケイの隣で苺を頬張った。
なんとなく甘えたくなって、自分のおでこを、こつんてケイのおでこにぶつけてみる。
そんなあたしの目の前で、ケイは、とっても綺麗で穏やかに笑ってくれた。

こうやって笑ってくれれば、あたしは、頑張れるから・・・
頑張ろう・・・
弱虫なあたしを支えてくれてるのは、ケイのこういう笑顔だから。
だから、あたしは、負けないんだ・・・
何があっても・・・
あたしは、負けないんだから・・・!

こうやって、あたしに色んなパワーをくれるケイに、あたしも・・・何かパワーというか、元気をあげたいな。
少しでもケイの支えになれたなら、きっとそれで、あたしという人間の価値が上がるんじゃないかって、その夜、あたしは、しみじみとそう思った。

来週になれば、桜を見に行けるかな?
そういえば、ケイの病院も、来週だった気がする・・・
検査の結果が良好だといいな・・・


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