BitteR SweeT StrawberrY
ドアの向こうから、足音と笑い声が遠ざかっていく。
視界を確保するのにあたしは手探りで照明のスイッチを探して、それを探し当てて、灯りを付けた。
モップとかバケツとか、掃除機とか、そんなものが沢山置いてある狭い空間で、あたしは、もう一度深呼吸する。
ドアを開けようと、ノブを回すけど、もちろん開かない・・・・
ここは外鍵なんだ・・・・
さて、どうしようかな・・・・
少し、冷静に考えてから、あたしは、ジャケットのポッケから携帯を取り出して、警備室に電話をかけたのだった。
警備員さんに鍵を開けてもらい、あたしが、用具倉庫から出れたのは、そこから5分後のことだった・・

人間のもってるマイナスの感情って、ほんとに怖いものだと思う。
ほんの少し、目立つというか、平均から飛び出しただけで、結局は、フラストレーションのはけ口として、こうやって利用されてしまうんだから・・・
そもそもあたしは、人と違うことをしたことがなくて、基本は、周りから飛び出さないように、目立たないようにして生きてきたから、こんな目にあったことなんて一度もなかった。
不本意なことで、急に注目を浴びてしまったあたしは、きっと、ストレス発散の良いターゲットにされてしまったんだと思う。
あたしの知らないところで、こうやって、ひどい目にあってた人も、この会社の中にはいたのかもしれない・・・
そう思ったとき、ふと、頭に浮かんだのは、真帆ちゃんのことだった。
真帆ちゃんも、高校生のときにひどいイジメにあって、引きこもりになってしまった子だから、きっと、こうやって沢山嫌な思いをしたんだろうって、そう思った。

今朝は、開き直っていたけど、用具倉庫から出たあたしは、また重い気持ちになってしまっていた。
明日も、また、変なメールとかくるのかな・・・?
また、こんなことされたりとか・・・?
そもそも何も悪いことなんかしてないのにな、ただ、大輔と付き合ってたってだけで・・・
それなのに・・・・
なんでこんな目に合うのかな・・・?
あたしの中の弱虫は、まだ完全に駆除されていなかったみたいだ・・・

      *
それからというもの、あたしへの嫌がらせは、日を追うごとにひどくなっていった。
朝出勤してパソコンを立ち上げると、変なメールが沢山来ていて、デスクの引き出しを開けると、酷い中傷の書かれた付箋が、びっしり貼ってあったり…
付箋がないときは、何かとんでもないものが入っていた。

最初は画鋲、次はコンドームの山、その次はコーヒーがぶちまけられていて…

毎日毎日、よくネタが思いつくなって思うほど、ほんとに色んなモノが引き出しに入っていた。
あたしが、会社に出勤するようになってから、約一週間。
気付けば、あたしの周りには誰もいなくなっていた。
挨拶をしてくれる人も少なくなって、お昼ご飯に誘ってくれる人も、ほとんどいなくなっていた。
美保に、相談してみようかとも思ったんだけど、こういう時に限って、専務の地方出張にかり出されていて、ものすごく忙しそうだった。
忙しい最中の美保に、変な心配も迷惑もかけられない…
あたしの気力も段々と下向きになってきて、ぐったりとして、青い顔のままケイの部屋に帰る日も多くなっていた。

その日は、朝から具合が悪くて、胃の入り口がキリキリと痛かった。
それでも会社には行ってみたけど、結局、いつもみたいに嫌がらせをされながらの仕事だった。
仕事自体は辛くはないけど・・・
もう、周りの雰囲気が悪すぎて、息が苦しい。
やっと退社時間になって、帰り際、トイレに入ろうとして個室のドアを開けたとき、誰かの足音と話し声が近づいてくるのが判った。
とりあえず気にしないで個室の中に入った時、あたしの頭上から、ものすごい勢いで水が降ってきたのだ・・・

「!?」
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