BitteR SweeT StrawberrY
      *
梅雨明けも間近。
お店のお洋服は全て夏物に変わり、そろそろ秋物の手配なんて話が、ケイや新城さんの口から出始まって、ケイの30回目の誕生日も間近に迫っていた時のことだった。
その日は、やけに忙しい日で、お昼ご飯も食べれられないまま仕事を終えて、あたしは、ぐったりとしたままケイの部屋に帰ることにした。
今日は、ケイは遅番の日で、きっと、9時過ぎるまで帰ってこないと思う。
とりあえず、夕食の準備だけしておかないと・・・なんて、そんな主婦みたいなことを考えながら、駅からケイのマンションに向かっていたあたし。
その時、ハンドバックの中の携帯が、不意に、着信音を鳴らしたのだった。
この時間の着信なんて、ケイか佐野さんのどっちかだ。
あたしは、何故か、えへって変な笑いをしてから、ハンドバックの中をまさぐって、携帯を開く。
でも、電話の相手は、意外にも・・・あの、「週刊CAP!」の高田さんだったのだ・・・
あたしは、きょとんとして受話ボタンを押す。

「もしもし」

「もしも~し!こんばんは~週刊CAP!の高田です~
あの時はお世話になりました!」

電話の向こうで、高田さんは、なんだかやけに嬉しそうにそう言った。
あたしは、思わず笑ってこう答える。

「いえいえ~・・・ちょっとは役に立ったみたいで、よかったです」

「ちょっとどころじゃないよ~~~~!大いに!」

「そうなんですか?」

「そうだよ!あ・・・そうだ、えと、いま、MEGLは近くにいるかな?」

「え?いえ・・・いませんよ。まだ仕事してます」

「そうかぁ・・・」

「どうしました?ケイに用事ですか?」

「うん、そうだね。かなり用事あるかな」

携帯の向こう側で冗談ぽく笑って、高田さんは、言葉を続ける。

「うんとね・・・まぁ、もし、MEGLがよかったらの話しなんだけど・・・
ちょっと、仕事としてね、お願いしたいことがあるんだ」

「ケイにですか?」

「そうそう。だから、暇なときでいいんで、ちょっと連絡もらいたいって、MEGLにそう伝えてもらえないかな?」

「え?ああ・・・はい、わかりました~」

「うんうん、じゃ、よろしく~・・・・これから原稿やるから、ほんと用件だけでごめんね!」

「はーい」

あたしがそう答えると、高田さんは、慌しく電話を切った。
相変わらず忙しい人だなって、あたしは、思わず笑ってしまった。
ケイに出会ってから、あたしの人間関係も大分変わった気がする。

きっとあたしの世界は、少しずつ広くなっていってるんだと思う・・・

本当に、ケイと出会う前は、全然考えられなかった世界が、あたしの目の前に広がり始めてる。
あたしの目標は・・・
実はまだ見つかってないけど・・・
でも、今、仕事は楽しいし、色々心配や不安もあるけど、ケイと一緒に暮らしている日々は、本当に充実してると思う。

もうちょっと・・・
もうちょっとで・・・
あたしの目標・・・・
見つかる気がするな・・・

あたしは、一人でえへへって笑って、ムシムシする空気の中をマンションに向かって歩いて行った。


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