BitteR SweeT StrawberrY
       *
高田さんと佐野さんが帰って、片付け物をして、あたしがベッドに入ったのは11時半を少し回った時だった。
先にベッドにいて、本を読んでいたケイの隣にもぐりこんで、あたしは、なんとなく、じーっと、ぺージをめくるケイの細い指先を見つめてみる。
そんなあたしの視線に気付いて、ケイは、ふと本を閉じて、ゆっくりとその視線をあたしに向けたのだった。

「なんだ?どうした?おまえ、急に元気なくなったな」

ケイは唇だけで小さく笑ってそう言った。
あたしは、ちょっとだけ困って、こつんってケイの細い肩におでこをぶつけてみた。

「んー・・・・」

「なに?」

「あたし・・・・きっとまだ弱虫なんだ」

「どうした急に?」

「うーん・・・」

「もしかして、礼奈の本のこと?」

「んー・・・・基本はそこだけど・・・でもね、ちょっと違うの」

「んー?」

「あのね」

「うん」

「あたし・・・ケイのこと好きだし、そのことは全然、恥ずかしいとか・・思わないの」

「うん」

「でもね・・・例えばそれが誰かに知られた時に・・・その人がどういう反応するか、やっぱりそれは怖い・・・」

「うん。優子らしい優子だな!」

ケイはそう言って、おかしそうに笑った。
あたしは、そんなケイを上目使いに見て、思い切り困って、また、唸ってしまう。

「んー・・・そうだよね・・・そうかもね」

「でもそれってさ」

「うん」

「やっぱ考え方だと思う。誰かが誰かを好きになることって、おかしいことかな?」

「ううん。全然おかしくない」

「だろ?」

「うん」

「こいつのこと好きなんだから、それって自分の気持ちだから、周りになに言われてもしょうがないって思うか、周りを気にして、周りの視線痛いから、もうだめだって思うか、全部自分次第なんだよ」

決して嫌味な訳じゃなく、ケイはそう言って、真っ直ぐな瞳であたしの顔を見つめると、言葉を続ける。

「別にオレはね、自分のことはどう思われてもいいと思ってる。
でも、その弊害で、もし、優子や・・・ガクが嫌な思いするなら、それはそれで考える。
オレはただ、礼奈が書きたいっていうから、じゃ、書けばって言っただけ。
自分の人生は自分で責任取るしかないから、そういう覚悟もできてるし、別に、誰かに何か言われても、自分のやってきたことを後悔なんかしないから。
それでいいって思って決めてきたことだからさ。
だけどな、それで、自分の大事な人間が傷つくなら、それを強行する気はないよ。
別にこだわってないしな」

「・・・・・・・」

小さく笑ってそう言ったケイの言葉は、真実だと思う。
もし本が出ることで、あたしが傷ついたりするなら、断るってことだと思う。
あたしは、少し押し黙って、真っ直ぐなケイの瞳を見つめ返してしまった。
なんで高田さんが、ケイのことを本に書きたいかって、ふと考えてみる。
ケイの生き方はカッコイイと思う。
< 231 / 247 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop