BitteR SweeT StrawberrY
      *
高田さんから、執筆を開始しますって連絡をもらってから4ヶ月。
お店のお洋服は夏物から秋物に変わり、結構な量の冬物も店頭に並ぶようになってきた頃の事だった。
あたしとケイが出会ってから、もう10ヶ月。
あたしも仕事に慣れて、ケイに教えてもらいながら、仕入れの勉強なんかも始めていた頃のことだった。
その日は、秋の終りかけにも関わらず、真冬みたいに寒い日で、厚手のコートが何着も売れていた。
季節の変わり目のせいなのか、ここ数日、ケイはあまり調子がよくなくて、なんだか、頻繁に頭痛がすると言っていた。

今日は寒かったせいもあるのか、なんのか、なんだかひどい眩暈がするって言って、あたしは、アヤさんが来るのを待って、ケイを連れて一緒に家に帰ってくることにした。
すっかり日も短くなって、5時ちょっと過ぎだっていうのに空は薄暗い。
あたしは、ケイの背中を抱えるようにして、玄関のドアを開けて、中に入ると電気をつける。

「ケイ?大丈夫?」

「うん・・・」

寒さと頭痛のせいか、すっかり青ざめてしまったケイの横顔。
でもケイは、明るくなった部屋の中で、その綺麗な唇だけで小さく笑ってくれた。
なんだか、変な胸騒ぎがしていたあたしだったけど、あたしも、精一杯、笑って見せる。
あたしは、ケイを寝室まで連れていって、とりあえず、寝かしてあげることにした。

「なにか飲む?ホットミルクでもつくってあげようか?」

冷え切ったケイの体に毛布をかけて上げなら、あたしはそう言って、青ざめたケイの顔を覗きこむ。
ケイは、片手を額に当てたカッコで、ゆっくりとその視線をあたしに向けると、何故か、穏やかに、すごく綺麗に微笑したのだった。

「優子」

「ん?」

「携帯貸して」

「え?」

「いいから・・・」

「あ・・・うん・・・」

あたしは、きょとんとしまま、床に置いてあるバックを片手で探って、携帯を取り出すと、それをケイに手渡した。
片手にあたしの携帯を持って、何故かカメラを起動したケイが、冷たい指先でそっとあたしの髪を撫でて、そこから、あたしの体を抱き寄せる。

「はぅっ」

思わず、ケイの隣に倒れこんだあたし。
ケイはそんなあたしを片手でぎゅって抱き寄せて、あたしのほっぺに自分のほっぺを寄せると、本当は、ものすごい頭痛がしてるはずなのに、びっくりするほどにっこりと笑ったのだった。

ケイの指先も、ほっぺも、すごく冷たい。
でも、その笑顔は温かくて、あたしは、なんだか戸惑ったけど、一緒になって笑ってしまった。
その瞬間、かしゃって音がして、携帯カメラのシャッターが切れる。

ディスプレイの中のあたしとケイは、とっても幸せそうに笑っていた・・・・
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