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    *
あたしの目の前で、ケイが救急車で運ばれるのは、これが二回目だった。
落ち着いてなんかいられなかった、一回目以上に心がざわめいて、あたしの手も足も、全然、震えが止まらなかった。
今回も、ケイが運ばれたのは、いつもケイが行ってるあの大学病院だ・・・
ここのICUに来るのも二回目。
あの時と、一つ違ったのは・・・
ぶるぶる震えているあたしの隣には、すでに、佐野さんがいるっていうことだけだった。

「まぁ、落ち着けよ。でも・・・泣いてないだけ、今回は偉いな・・・」

あたしの隣に座っている佐野さんは、あの時と同じで、やけに冷静だった。
だけど・・・
もしかすると、佐野さんも、何か感じていたのかもしれない・・・
あの時よりも、なんだか無口な気がする。

「佐野さん・・・あたし・・・ど、どうしよう・・・っ
怖いです・・・っ
ケイは・・・・
ケイは・・・
助かりますよね・・・っ」

ぶるぶると震えながら、思わず、そんなことを口にしたあたし。
佐野さんは、視線を天井に向けながら、一瞬だけ黙って、静かにこう言った。

「あいつがそう簡単に死ぬわけない・・・・少なくとも、ここでぽっくりってことはないと思う。
だってあいつ・・・
粘り強いから・・・
おまえが不安がってどうするんだよ?
とりあえず、落ち着け」

「は・・・はい・・・っ」

それから、なんだか、言葉もないまま、あたしと佐野さんは、お医者さんに呼ばれるのを待っていた。
どれぐらいの時間が過ぎたのか、短かったのか長かったのか、判らなくなるぐらい、あたしは不安と緊張の中にいた。
あたしの頭の中は真っ白だった。
もしかすると、佐野さんの頭の中も、真っ白だったのかもしれない。
やっと診察室に呼ばれて、お医者さんと対峙して・・・
そして、あたしの頭は、もっともっと、真っ白になってしまった・・・
CTの画像と検査のデータを見ながら、難しそうに唸った救命の先生は、佐野さんとあたしに、こう告げたのだった。

「癌が・・・脳に転移してます。病巣は5つで、前頭葉の腫瘍は5ミリでしょうか。
小さな腫瘍が他に4つ・・・場所からして、進行すると、運動機能を圧迫することになるかもしれません。
運動機能が圧迫されれば、心機能や呼吸器に深刻な影響を与えかねません。
応急処置は済んでいますので、今後の治療方針は、担当の先生と、話し合って決めてください」

お医者さんのその言葉が、あたしの真っ白な心の中に・・・
ただ虚しく、響いていった・・・
泣き崩れてしまいたい・・・
でも・・・
あたしは・・・
まだ・・・
泣けない・・・
泣いたら・・・
いけないんだ・・・

泣いたら・・・
いけない・・・



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