BitteR SweeT StrawberrY
*
ケイは、そのまま入院になった。
目を覚ましたケイに、あたしは、飛び切りの笑顔を作ってみせた。
酸素マスクをしたケイは、そんなあたしに、優しく笑ってくれた。
そこから、年が開けるまでずっと、あたしは、毎日、病院に通い続けた。
雨が雪に変わった日も、仕事が終わると必ず病院に顔を出した。
それは佐野さんも一緒で、佐野さんも、忙しい仕事の合間を縫って、必ず、ケイの病室に足を運んでいた。
外科手術を行わず、γ―ナイフという放射線治療で、ケイは病気と闘っていた。
元から細身のケイが、日に日に痩せていく姿は、ほんとうに、見ていて泣きたくなるほど辛かった。
だけど・・・
あたしは・・・
泣かなかった・・・
ケイが闘ってる以上・・・
あたしが先に泣いたらいけないって・・・
そう思っていたから・・・
だから、あたしは・・・
絶対に泣かないって決めて・・・
毎日、病室の前で笑顔を作って、ドアを開けて、元気に「ただいま~!」って言うことが、日々の日課になっていた。
ケイと出会って、一年になろうとしていた頃・・・
その日は、ほんとうに寒い日で、夕方から振り出した雨が、霙に変わってきていた。
だけどあたしは、何故かその日、無償に、ケイに苺を持っていってあげたくて、苺を探して色んなスーパーとかフルーツ屋さんを駈けずり回って、やっと1パック手にいれて、霙が雪に変わった寒空を、病院に向かって走ったのだった。
やっと辿り着いた、ケイの病室。
あたしは、いつものように、病室の前で、笑顔を作って、いつもの様に「ただいま~!」って、ベッドに横になったままのケイにそう声をかけた。
ケイは、酸素マスクのまま、ちょっとうつろな瞳で、ゆっくりとあたしに振り返る。
「おかえり・・・」
ほんとに、消え入りそうな小さな声で、ケイはそう答えて、小さく笑っていた。
その頃のケイは、もう、酸素マスクがないと話すこともできないぐらい、衰弱していた。
それじゃなくても細かった体が、もっともっと細くなって、顔色も、決していいとはいえなかった。
昏睡状態にならないだけ、まだ、思考能力が働いているだけ、ましなんだよって、お医者さんはあたしにそう言っていた。
つまり・・・
もう、ここまで来ると、いつ、昏睡状態になってもおかしくないっていうことだった。
ケイの年齢はまだ30歳で、癌の進行が、ものすごく早いのだ・・・
あたしは、ケイのベットの脇に腰を下ろして、買ってきた苺を見せながら、思い切り笑顔を作って見せる。
「なんだかね、急に苺が食べたくなってね、買ってきちゃった!
うーん・・・ケイも食べれるかな?
食べる?」
「おまえ・・・ほんとうに・・・・苺好きだよな・・・」
消え入りそうな小さな声で、ケイはそう答えた。
呼吸は少し苦しそうだった。
それでもケイは、あたしに向かって、にこって笑ってくれるのだ・・・
その姿が、痛々しくて・・・
でも・・・
そうやって、必死で笑ってくれるケイが愛しくて・・・
あたしは、毎回、涙を堪えるのに必死だった・・・
あたしの心の中には・・・
ケイが泣かない以上、泣いたらいけないんだって、そんな思いがあって・・・
絶対に、何があっても、ケイの前では泣かないって決めていたから・・・
だからあたしは、絶対に、泣かなかった・・・
泣けない以上、あたしは、どんなに辛くても、笑っている。
ケイの前では笑顔でいる。
だからこの時も、あたしは、笑っていた。
「ケイだって好きじゃない?
ああ・・・そうだ、そう言えば、お昼に高田さんから電話があってね。
予定より遅れちゃったけど、本、書きあがったよってさ。
出版は、再来月になるって言ってたかな・・・?
初版は絶対に持ってくるからって言ってたよ」
「うん・・・そか・・・」
「楽しみだね?どんなこと書いてあるのかな?」
「それは・・・礼奈に・・・聞いてみないとな・・・
読めるかな・・・最近・・・目が・・・見えずらいから・・・」
「読めるよ~!読めなかったら、あたしが音読してあげるよ!」
ケイは、そのまま入院になった。
目を覚ましたケイに、あたしは、飛び切りの笑顔を作ってみせた。
酸素マスクをしたケイは、そんなあたしに、優しく笑ってくれた。
そこから、年が開けるまでずっと、あたしは、毎日、病院に通い続けた。
雨が雪に変わった日も、仕事が終わると必ず病院に顔を出した。
それは佐野さんも一緒で、佐野さんも、忙しい仕事の合間を縫って、必ず、ケイの病室に足を運んでいた。
外科手術を行わず、γ―ナイフという放射線治療で、ケイは病気と闘っていた。
元から細身のケイが、日に日に痩せていく姿は、ほんとうに、見ていて泣きたくなるほど辛かった。
だけど・・・
あたしは・・・
泣かなかった・・・
ケイが闘ってる以上・・・
あたしが先に泣いたらいけないって・・・
そう思っていたから・・・
だから、あたしは・・・
絶対に泣かないって決めて・・・
毎日、病室の前で笑顔を作って、ドアを開けて、元気に「ただいま~!」って言うことが、日々の日課になっていた。
ケイと出会って、一年になろうとしていた頃・・・
その日は、ほんとうに寒い日で、夕方から振り出した雨が、霙に変わってきていた。
だけどあたしは、何故かその日、無償に、ケイに苺を持っていってあげたくて、苺を探して色んなスーパーとかフルーツ屋さんを駈けずり回って、やっと1パック手にいれて、霙が雪に変わった寒空を、病院に向かって走ったのだった。
やっと辿り着いた、ケイの病室。
あたしは、いつものように、病室の前で、笑顔を作って、いつもの様に「ただいま~!」って、ベッドに横になったままのケイにそう声をかけた。
ケイは、酸素マスクのまま、ちょっとうつろな瞳で、ゆっくりとあたしに振り返る。
「おかえり・・・」
ほんとに、消え入りそうな小さな声で、ケイはそう答えて、小さく笑っていた。
その頃のケイは、もう、酸素マスクがないと話すこともできないぐらい、衰弱していた。
それじゃなくても細かった体が、もっともっと細くなって、顔色も、決していいとはいえなかった。
昏睡状態にならないだけ、まだ、思考能力が働いているだけ、ましなんだよって、お医者さんはあたしにそう言っていた。
つまり・・・
もう、ここまで来ると、いつ、昏睡状態になってもおかしくないっていうことだった。
ケイの年齢はまだ30歳で、癌の進行が、ものすごく早いのだ・・・
あたしは、ケイのベットの脇に腰を下ろして、買ってきた苺を見せながら、思い切り笑顔を作って見せる。
「なんだかね、急に苺が食べたくなってね、買ってきちゃった!
うーん・・・ケイも食べれるかな?
食べる?」
「おまえ・・・ほんとうに・・・・苺好きだよな・・・」
消え入りそうな小さな声で、ケイはそう答えた。
呼吸は少し苦しそうだった。
それでもケイは、あたしに向かって、にこって笑ってくれるのだ・・・
その姿が、痛々しくて・・・
でも・・・
そうやって、必死で笑ってくれるケイが愛しくて・・・
あたしは、毎回、涙を堪えるのに必死だった・・・
あたしの心の中には・・・
ケイが泣かない以上、泣いたらいけないんだって、そんな思いがあって・・・
絶対に、何があっても、ケイの前では泣かないって決めていたから・・・
だからあたしは、絶対に、泣かなかった・・・
泣けない以上、あたしは、どんなに辛くても、笑っている。
ケイの前では笑顔でいる。
だからこの時も、あたしは、笑っていた。
「ケイだって好きじゃない?
ああ・・・そうだ、そう言えば、お昼に高田さんから電話があってね。
予定より遅れちゃったけど、本、書きあがったよってさ。
出版は、再来月になるって言ってたかな・・・?
初版は絶対に持ってくるからって言ってたよ」
「うん・・・そか・・・」
「楽しみだね?どんなこと書いてあるのかな?」
「それは・・・礼奈に・・・聞いてみないとな・・・
読めるかな・・・最近・・・目が・・・見えずらいから・・・」
「読めるよ~!読めなかったら、あたしが音読してあげるよ!」