BitteR SweeT StrawberrY
「音読・・・・恥かしいだろ、それ?
オレじゃ・・・なくて・・・おまえが」

「え~?ケイしかその場にいないなら大丈夫だよ!」

あたしはそう言って、えへって笑うと、ベッドの上に両肘を付いて、どこか空ろなケイの顔を、じーって見つめたのだった。
ケイは、ちょっとだけ困ったように眉間を寄せて、そんなあたしを見つめ返す。
あたしは、点滴が打たれているケイの手をそっと握って、また、にっこりと笑って見せたのだった。
もう、骨の形がわかるぐらい細くなったケイの指が、ゆるい力で、あたしの手を握り返す。
きっと、今のケイには、この握力が精一杯なんだと思う。
そんな精一杯の力で、あたしの手を握ってくれることが、あたしは、本当に嬉しくて・・・また、涙が出そうになって、慌てて、笑顔を作るのだ。

「もうそろそろ・・・一年だよぉ・・・・ケイに初めて会ってから。
あたし・・・去年よりも、変わったかなぁ・・・?
成長したと思う?」

「うーん・・・そう、だな・・・・おまえ・・・」

「うん」

「強くなったよ・・・」

「そうかな?」

「うん・・・すごく・・・強くなった気が・・・する・・・
そういえば・・・・」

「うん」

「目標・・・・・・」

「うん?」

「優子の・・・・・・目標・・・・・・」

「うん・・・・」

「見つ、かった・・・・のか?」

「やだぁ・・・・もう見つかったよ!
あ・・・もしかして、言ってなかったっけ?」

「聞いて・・・ないな・・・・」

「やばい!あたし、一人で自己完結してたんだ・・・・!」

「なんだ・・・それ?」

ケイはうつろな瞳を僅かに細めて、くすくすと笑う。
あたしは、誤魔化すように笑いながら、そんなケイのおでこにこつんておでこをぶつけて、大きく息をすると、こう言ったのだ。

「あのね・・・ケイが入院する前、仕入れとかそういう教えてって、聞いたじゃない?」

「うん・・・」

「あたしもね・・・ケイみたいに・・・
お洋服屋さんを、極めてみようと思って。
それで色々、聞いてたんだよ。
ほら、あたしが色々覚えたら、ケイのお手伝いもスムーズだし・・・・」

そこまで言って、あたしは、思わず言葉を詰めた。
今にも、涙が溢れそうになったからだ。

泣かない・・・
絶対泣かないよ・・・


あたし・・・
泣かない・・・
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