BitteR SweeT StrawberrY
    *
新城さんが帰ってから、あたしは、苺の乗ったフルーツ皿をケイの寝室に持っていった。
サイドテーブルにそれを置きながら、こそっとベットを覗くと、ケイは、うつぶせの姿勢で寝てしまっているようだった。
あたしは、ケイが起きないように足音を潜めて部屋を出て、お風呂を借りることにした。
うちのユニットバスとは比べ物にならないぐらい広いお風呂でびっくりしつつ、シャンプーとかボディーソープとかも、なんだか高級品ぽくて、すっかり収入の差を思い知らされてしまう。

ケイってば、お金持ちなんだな~・・・・

あたしは、そんなことを思いながらお風呂を出て、棚にきちんとたたんであったタオルを借りて髪を拭かせてもらう。
それからパジャマに着替えて、ハッとした。
あたし、どこに寝ればいいんだろう???
思わず考えこんでしまったあたしは、とりあえず、ケイの寝室へと戻ることにした。
関節照明だけが点いた薄暗くて、そして広い寝室。

苺の香りのする部屋の中を、あたしは、まるで泥棒のように足音を潜めて進んでいって、こそっとベッドの上のケイを覗きこんだ。サイドテーブルの苺は減ってないし、きっと、ぐっすり寝ちゃってるんだな・・・あたしはどうしようか迷って、とりあえず、部屋を出るためにUターンしようとした、その時。

「隣で寝たら・・・?」

背中の方で、いつもよりハスキーで小さな声がそう言った。

「わ・・・っ!」

あたしは驚いて思わず声を上げる。
無駄に心臓がどきどきと大きく鳴り始める。
あたしは、恐る恐る、ベットを振り返った。
すると、ケイが、うつぶせのままこっちを見て、小さく笑ってた。

「もぉ・・・っ、寝てると思ったのに、びっくりしたぁ・・・
あ・・・もしかして、起こしちゃった???」

「大丈夫・・・調度目が覚めた・・・ずっと寝てるから、そろそろだるい」

ケイはそう言って仰向けになると、綺麗な額に自分の腕を押し付けた姿勢で、ちらっと、サイドテーブルを見る。

「あれ・・・・」

あたしは、どぎまぎしながら、ぎこちなく笑ってしまった。

「あ、それ・・・目が覚めた時・・・食べるかな~?って思って・・・勝手に冷蔵庫から出してきちゃった、ごめん」

「謝るの好きだな」

ケイはそう言って、もう一度小さく笑うと、ゆっくりとベッドの上で起き上がる。
サイドテーブルに手を伸ばして、大粒の苺を摘むと、ケイは、「ありがとう」と言って笑った。
さっきより、少し顔色よくなったみたいで、あたしはちょっと安心した。

「お腹空いた?」

「いいよ、これで」

「そ、そっか・・・・まぁ、いきなり何か食べるのも胃に悪いかもだしね」

あたしが、ベットの脇にちょこんと座り込むと、ケイはそんなあたしに、苺を一つ取ってくれた。
あたしは、それを受け取ると、思わず、自分でもびっくりするぐらい嬉しそうに笑ってしまった。

「あは、ありがと!」

「幼児だな」

ケイはからかうようにそう言う。

「だってあたしも、苺好きだもん!」

あたしはそう答えて、がぶっと苺にかぶりつく。
あたしの口の中に、苺の新鮮な香りが広がって、甘くて少し酸っぱい味が舌の上に充満する。

「甘くてしあわせ・・・っ!」

変な幸福感に浸りながら、たしは思わずそんなことを呟いて、もう一口・・・
と思ったら、いきなり、あたしの肩がケイに引き寄せられて、ケイのさらさらの髪がほっぺに触った。
あたしが指で摘んでいた食べかけの苺。
その苺に、ケイがぱくっと噛み付いた。

「わ・・っ」

故意なのか偶然なのか・・・その時、ケイの舌先がぺろっとあたしの指先を舐めて、あたしの苺をさらっていってしまう。

「ああああ~~~~~~っ!」

あたしは、指を舐められたという恥ずかしさと、苺を取られたショックで思いっきり叫んでしまう。
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