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だけど、美保は、別に悪気があってそう言ったわけじゃないことを、あたしは良く知ってる。
美保は、真剣な顔のまま、言葉を続けた。

「問題はそこだと思うの。いろんな人と付き合ってから結婚するのと、あんまり付き合わないで結婚するのと
じゃ、きっと何かが違うと思う」

「う・・・うん」

「あたしね、専務によく言われるの。女は、沢山の恋愛で磨かれて綺麗になるから、恋愛は沢山しなさいって」

「えぇ?!専務そんなこというの?!」

「うん、言うよ。もうおじさんだけど、きりっとしてるしさ、やっぱり仕事できる人だから、言うことも何か違うんだよ。
あたし、この人の秘書として働けてよかったなって思うもん。
だから、先輩にきつく当たられても、頑張ってこれたっていうのはある。
もちろん、専務と不倫してるとかそういうのは一切ないけど、人間として、あたしは専務を尊敬してるの」

「うん」

「磨かれた女は、仕事もバリバリこなせるし、冷静な判断力を持ついい女になれるんだぞって言われて、うわっ!って思ったの。
これでもかってほど恋愛と仕事で自分を磨いて、人生で一番すばらしいと思える男を捕まえて、それから結婚すればいいって。
周りがどんどん結婚していっても、焦ることもないし、焦って馬鹿を捕まえて結婚なんかしたら、女としての生涯も終わってしまうって」

「うんうん・・・なんか、深いね・・・」

「うん、深いでしょ?」

「深い・・・っ!」

「多分、優ちゃんはね、村木さんのこと、もうこの人サイコ――――――っ!この人いないと生きていけな―――――い!って思えてないんだと思う」

「・・・・・・・っ」

美保にはっきりそう言われて、あたしは、ハッとした。

そういえばあたし・・・
こんなの大輔に失礼かもしれないけど・・・
大輔があたしの人生で最高の人だって・・・
この人がいないと生きていけないなんて・・・
思ったこと、ないかもしれない・・・

大輔のことは、確かに好き。
人間性もいいし、優しい人だし。
人柄もいいから仕事も結構取って来て、美保が言う通り、結婚してもきっと生活には困らないとは思う。
そんな大輔、だけど・・・
あたし、大輔が最高の人だって・・・
思ったこと・・・
ほんとに申し訳ないけど、ないかもしれない・・・

あたしの心の中に、ちくちくと何かが刺さっていく。
それは、間違いなく、大輔に対する罪悪感だった。

「美保・・・・美保、今、すごく大事なこと教えてくれたよ・・・・」

「ん?」

「あたし・・・今考えると、確かに、大ちゃん最高!大ちゃんいないと生きていけない!って・・・思ったこと・・・ないかも」

あたしのその答えを聞いて、美保は、なんだか納得したように、うんうんと頷いた。

「きっとね、不安もあるんだと思うよ。ほら、みんな、マリッジブルーとかなるって言うじゃない?結婚は一生ものだから。
離婚なんて、すぐにできそうで、結構できないもんだってよく聞くし、これからおばぁちゃんになるまで、この人と一緒にうまくやれるかなって思ったら、やっぱりさ、ちょっとびくびくしちゃうよね」

「う・・・うん・・・」

「だから、この人サイコ―――――っ!って思えないと、きっとダメなんだよ」

「うん・・・そうかもしれない」

「優ちゃんさ・・・・」

「うん?」

美保は改まってじーっとあたしの顔を見つめると、何かを含んだようにくすっと笑って、またしても真剣な声でこう言った。

「優ちゃん・・・なんか、前まで付けたことないような色の口紅、つけてるよね?」

「え?どうして?」

あたしは、何で美保が、そんなことを真剣に聞くのはわからなくて、思わずきょとんとしてしまう。
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