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           *
ケイがフロアに戻ってから、少し経った時だった、ケイの言葉通り、ストックヤードに真帆ちゃんが現れた。
あたしは、真帆ちゃんを振り返って、取り合えず笑顔で「お疲れさま!」って言ってみる。
すると真帆ちゃんは、あたしと目線をあわせないようにこっちに近寄ってくると、手に持っていたファーストフード店の袋を出しだしたのだった。

「え・・・????」

あたしがきょとんとすると、真帆ちゃんは、何故か、もじもじしながらこう言った。

「ケイ姉たまが・・・お昼ご飯にと買ってきてくださいました・・・
私、この姿でお店の外には出れない性分ですので・・・
それで、いつも、こうやって買ってきてくださいます・・・
優子さまの分もありますと、おっしゃっておいででした・・・・
なので、差し支えなければ、ご一緒にどうかと・・・」

「・・・・あ・・・は、はい・・・なんの差し支えも・・・な、ないですっ」

あたしは、思わず困って、愛想笑いをしてしまう。
ほんとにこの子、変わってるなって・・・
変わってるというか、印象的には、ちょっと痛い子だなって・・・
この子、フロアでもこの口調で、接客してるのかなって、そんな素朴な疑問が浮かぶけど、それは、あえて聞かないことにした。

「えと、ここで食べてもいいのかな?事務所いく?」

あたしがそう聞くと、真帆ちゃんは、また、もじもじしながらこう答える。

「あの、私、引きこもり生活が長かったので・・・できれば、こちらのような、ほのかに暗い場所の方が、落ち着きますのです・・・」

「あ・・・あぁ、そ、そうか・・・じゃ、ここで食べようか?」

「はい・・・」

こくんと頷く真帆ちゃんが、なんだかちょっと可愛かったから、あたしは、思わず笑って、棚に立てかけてあるパイプ椅子を取った。
それをテーブルの脇に置いて、あたしがそこに座ることにした。
真帆ちゃんは、その向かいにちょこんと座って、がさがさとファーストフードの袋を開け始める。

「優子さま」

「え?!は、はい!」

「おかしなやつと、お思いでしょうが・・・お許しください」

真帆ちゃんは、袋の中の飲み物を取り出しながら、突然、ぽつりとそんなことを呟く。
それを聞いたあたしは、またしても変な愛想笑いをしてしまった。

「い、いえ・・・だ、大丈夫!き、気にしてないよ!」

「嘘でもそう言っていただけると、助かります・・・」

「いえいえいえいえ!」

これはほんとに、慣れるまでは強烈だなと・・・内心は思ってる。
内心は思ってるけど、この子が、悪い子じゃないことはわかる気がした。
こうやって、ちゃんと、他人に気を使えるんだから、この子は、根っこからの痛い子じゃない。
真帆ちゃんは、飲み物を口に運びながら、相変わらずのうつむき加減で言葉を続けた。

「優子さまは、ケイ姉たまのお友達なんですよね?」

「え?う、うん、まぁ。でも、知り合ったのは最近だよ」

「ケイ姉たまは・・・お優しい方です・・・そして、殿方より男前です」

それを聞いた瞬間、あたしは、思わずおかしくなって、飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。

「ぶ!あはは!うん、確かに男前だね・・・!それは判るよ」

「ええ・・・とても・・・引きこもりニートだったこの私を、外界に出してくださいました・・・私、ケイ姉たまに、足を向けて眠れませぬ」

「そっ、そうなのっ!?」

「はい・・・・」

真帆ちゃんは、こくんと頷いて、ゆっくり顔を上げると、急ににっこりと笑った。
美人さんなだけに、その笑顔はすごく華やかで、どうしてこの子が引きこもりニートだったのか、あたしにはよく理解できなかった。
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