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あたしは、何か悪いこと言っちゃったかなと思って、「あ!ご、ごめん、悪いこと言っちゃったかな!?」って思わず聞いてしまった。
ふるふると首を横に振った真帆ちゃんは言う。

「とんでもない!優子さま、ケイ姉たまと同じことをおっしゃるから、驚いただけです」

「え?」

「引きこもって6年、ある日、私の元に、姉が、一冊の雑誌を持ってきましたの・・・・」

「ん???」

「ファッションなどには興味なかったのですが・・・姉が、若いうちにお洒落はしておきなさいと、とりあえず、見るだけ見なさいと・・・そう言って」

「う、うん」

「興味などなかったのですが・・・なんとなく、それを開いてみたら、丁度、このお店が載っていて・・・」

「うん」

「そこに、ケイ姉たまのお写真も載っておりましたの」

「うん」

「私・・・驚きましたの」

「うん?」

「トップスター以外に、こんなにお美しい男装の麗人がいるのかと」

「え!?・・・あっ、ぁあ、うん、た、確かに・・・
ケイは、男装の麗人系かも・・・し、しれないね・・・」

「最初は、写真を眺めるだけでよかったのですが・・・段々と、思いが募って参りまして・・・
私、こっそり・・・夜になるのを見計らって・・・自宅から、このお店まで、自転車で走り」

「え!?じ、自転車!?どうして自転車!?自宅って・・・こ、此処から近いの?」

「練馬にございます。自宅。
公共交通機関は、人が多くて・・・恐ろしかったのです・・・自転車なら、わき目も振らず走れますので・・・」

練馬!?と、聞き返しそうになったけど、あたしは、その言葉を我慢した。
東武東上線で池袋に出て、そこから山手線に乗り継いで半周、それでたどり着くこのお店まで、まさか、自転車でくるなんて・・・
あたしは、驚いたけど・・・とりあえず、平静を装って、「・・・・・そ、そっか・・・」とだけ答えた。
真帆ちゃんは話しを続ける。

「やっと辿りついたのですが・・・お店の中に入る勇気がありませんで・・・
その辺りを、うろうろしておりましたの・・・」

それを聞いて、あたしは、また吹き出しそうになった。
まるで、初めてあたしが、このお店に来たときみたいで、なんだか、可笑しくなってしまったから。
でも、ここで吹いたら、真帆ちゃんが傷つきそうなので、あたしは、じっと笑うのを堪えた。

「う、うん」

「うろうろしていましたところに、ケイ姉たまが・・・出てきて。
もろにジャージの私に向かって、にっこりと笑ってくださいましたの・・・
服を見たいの?って聞いてくださいました・・・
ダサダサで、どう考えもお金なんかもってないカッコの私を、笑顔で迎えてくれましたの・・・
私、その瞬間、なんだか涙が溢れてしまいまして・・・
馬鹿みたいに泣きじゃくってる私を、怪しいとも思わず・・・ケイ姉たまは、にっこり笑ったまま、撫で撫でってしてくださって。
どう考えも怪しいやつなこの私の・・・初めてあったばかりのこの私の・・・
くだらぬ話しを聞いてくださいました」

「ああ・・・なんか、ケイらしい・・・そういうとこ」

「はい、とても・・・
それで私、その時の恩返しにと、こちらでバイトを、させてもらうことにしましたの」

「うん・・・そっかぁ」

「すみませぬ、相当長い自己紹介となってしまいました・・・・」

自己紹介だったんだ!?と、突っ込みたくなったけど、きっとこれは、この子なりの自己紹介の仕方なんだと思って、あたしは笑った。

「そんな訳であやしいやつですが・・・どうか、よろしく・・・」

「いえいえ、こちらこそ!」

ケイは、このお店のスタッフはアクが強いって言ってたけど、ほんとのことだなって思った。
でも、ほんとに、ここの子達は、良い子なんだなとも思う。
なんだか、あたしも、安心してバイトできそうだな・・・
真帆ちゃんの華やかな笑顔につられて、あたしは、もう一度、にっこりと笑ってしまった。


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