BitteR SweeT StrawberrY
*
ケイが連れてきてくれた場所は、やけにお洒落でジャジーなショットバーだった。
ぶっちゃけあたしは、こんなにお洒落な飲み屋さんに来るのは初めて。
お酒は居酒屋チェーン店で飲むか、自宅で飲むか、いつもそんなのばっかりで、ほんとに、世間知らずにも程があると、自分でも思う。
そんなに大きくない店内には、聞きなれないジャズがゆったりと流れている。
ジャズに興味を持ったことなんかないけど・・・なんだか、ここでこうやって聞くと、変に落ち着いてしまうのが、とっても不思議なところ。
世の中には、ほんとに、あたしの知らない世界が広がってるって、つくづく思い知った気がする。
そういう意味でも、あたしは、ほんとに、世界の狭い人間なんだと思う・・・
バーのカウンター席。
気付かれないようにヘコんでいたあたしを、隣に座っていたケイが、ふと覗きこんでくる。
「優子は何を頼む?」
「え?!」
あたしは、ハッとして、ケイが差し出してくれたメニュー表に目をやった。
カクテルなんて、大手のチェーン居酒屋さんか、缶でしか飲んだことない・・・
どれを選んでいいかわからなくて、もう、ここは、居酒屋でも定番のものを頼もうと、口を開きかけた時だった。
くすっと笑ったケイが、ぽんってあたしの頭を叩いた。
「ぅっ!」
ケイはくすくすと笑っている。
あたしが、何を頼んでいいかわからなくて、おろおろしたことに気付いたんだと思う。
思わず顔を赤くして、あたしは、ちらっとそんなケイを見た。
ケイは、一度、にこっと笑ってからバーテンさんに声をかける。
「花椿と、スノーフェアリーを」
「????」
あまりにも聞きなれないそのカクテルの名前に、あたしは、きょとんとしてしまう。
バーテンさんは、丁寧に「かしこまりました」と答えてシャイカーの用意をし始めた。
あたしは、思い切り大きなため息をついた。
「あたし・・・ほんと世界が狭いんだなぁ」
「なんだ急に?」
ケイはカウンターに頬杖をついて、くすくすと笑うと、意味不明に天井を仰ぐあたしを見る。
あたしは、ケイに振り返りながら、ほんとに情けない声で言うのだった。
「だって・・・そんな名前のカクテルがあるなんて知らなかったもん。
こういうお店も・・・実は初めてで・・・
ホワイトデーには、あたし、26歳になるんだよぉ?
それなのに、いい歳して、あたし、な~んにも知らないんだなって・・・
ちょっとヘコんだ」
あたしの答えを聞いた、ケイは、可笑しそうに笑った。
「優子らしい優子なとこだと思う、そういうとこ」
「なにそれ~???」
不満そうなあたしを、すごく愉快そうな顔つきで見ながら、ケイは言葉を続けた。
「スレてないって褒めてるんだよ。
優子、誕生日、ホワイトデーなんだ?」
「うん・・・バレンタインのお返しと、誕生日プレゼントが一緒になるという・・・」
「気の毒だな」
「気の毒です!でも・・・なんか、誕生日プレゼントとか、もう別に欲しいとか思う歳でもなくなってきたぁ・・・」
「欲しいもの、何もないの?」
「うーん・・・ぱっと言われて、欲しいものって・・・なんだろう?
うーん、全然、思い浮かばない・・・
あ、そういうケイは?誕生日いつ?」
「あぁ・・・・7月かな?」
「7月なんだ!」
「うん」
「ケイは、欲しいものないの?」
さり気なく、それこそ変な意味でもなく、そうあたしが聞いた時、ケイは、一瞬黙って、何故か、切なそうに笑ったのだった。
あたしは、ハッして、そんなケイの笑顔をまじまじと見つめてしまう。
バーテンさんが差し出してきた、澄んだ紅色のカクテルを手に取ると、ケイは、呟くようにこう言った。
「時間・・・・・・かな?」
「時間??」
思わず聞き返したあたしに、ケイは、もう一度、どこか切な気に笑いかける。
あたしには、この時ケイが、どうして欲しいのものが「時間」と言ったのか、全然、その意味が理解できなかった。
ケイが連れてきてくれた場所は、やけにお洒落でジャジーなショットバーだった。
ぶっちゃけあたしは、こんなにお洒落な飲み屋さんに来るのは初めて。
お酒は居酒屋チェーン店で飲むか、自宅で飲むか、いつもそんなのばっかりで、ほんとに、世間知らずにも程があると、自分でも思う。
そんなに大きくない店内には、聞きなれないジャズがゆったりと流れている。
ジャズに興味を持ったことなんかないけど・・・なんだか、ここでこうやって聞くと、変に落ち着いてしまうのが、とっても不思議なところ。
世の中には、ほんとに、あたしの知らない世界が広がってるって、つくづく思い知った気がする。
そういう意味でも、あたしは、ほんとに、世界の狭い人間なんだと思う・・・
バーのカウンター席。
気付かれないようにヘコんでいたあたしを、隣に座っていたケイが、ふと覗きこんでくる。
「優子は何を頼む?」
「え?!」
あたしは、ハッとして、ケイが差し出してくれたメニュー表に目をやった。
カクテルなんて、大手のチェーン居酒屋さんか、缶でしか飲んだことない・・・
どれを選んでいいかわからなくて、もう、ここは、居酒屋でも定番のものを頼もうと、口を開きかけた時だった。
くすっと笑ったケイが、ぽんってあたしの頭を叩いた。
「ぅっ!」
ケイはくすくすと笑っている。
あたしが、何を頼んでいいかわからなくて、おろおろしたことに気付いたんだと思う。
思わず顔を赤くして、あたしは、ちらっとそんなケイを見た。
ケイは、一度、にこっと笑ってからバーテンさんに声をかける。
「花椿と、スノーフェアリーを」
「????」
あまりにも聞きなれないそのカクテルの名前に、あたしは、きょとんとしてしまう。
バーテンさんは、丁寧に「かしこまりました」と答えてシャイカーの用意をし始めた。
あたしは、思い切り大きなため息をついた。
「あたし・・・ほんと世界が狭いんだなぁ」
「なんだ急に?」
ケイはカウンターに頬杖をついて、くすくすと笑うと、意味不明に天井を仰ぐあたしを見る。
あたしは、ケイに振り返りながら、ほんとに情けない声で言うのだった。
「だって・・・そんな名前のカクテルがあるなんて知らなかったもん。
こういうお店も・・・実は初めてで・・・
ホワイトデーには、あたし、26歳になるんだよぉ?
それなのに、いい歳して、あたし、な~んにも知らないんだなって・・・
ちょっとヘコんだ」
あたしの答えを聞いた、ケイは、可笑しそうに笑った。
「優子らしい優子なとこだと思う、そういうとこ」
「なにそれ~???」
不満そうなあたしを、すごく愉快そうな顔つきで見ながら、ケイは言葉を続けた。
「スレてないって褒めてるんだよ。
優子、誕生日、ホワイトデーなんだ?」
「うん・・・バレンタインのお返しと、誕生日プレゼントが一緒になるという・・・」
「気の毒だな」
「気の毒です!でも・・・なんか、誕生日プレゼントとか、もう別に欲しいとか思う歳でもなくなってきたぁ・・・」
「欲しいもの、何もないの?」
「うーん・・・ぱっと言われて、欲しいものって・・・なんだろう?
うーん、全然、思い浮かばない・・・
あ、そういうケイは?誕生日いつ?」
「あぁ・・・・7月かな?」
「7月なんだ!」
「うん」
「ケイは、欲しいものないの?」
さり気なく、それこそ変な意味でもなく、そうあたしが聞いた時、ケイは、一瞬黙って、何故か、切なそうに笑ったのだった。
あたしは、ハッして、そんなケイの笑顔をまじまじと見つめてしまう。
バーテンさんが差し出してきた、澄んだ紅色のカクテルを手に取ると、ケイは、呟くようにこう言った。
「時間・・・・・・かな?」
「時間??」
思わず聞き返したあたしに、ケイは、もう一度、どこか切な気に笑いかける。
あたしには、この時ケイが、どうして欲しいのものが「時間」と言ったのか、全然、その意味が理解できなかった。