BitteR SweeT StrawberrY
【3】~ⅰ~
人影もない長い通路を抜けて、ケイが玄関のドアを開ける。
とりあえず、「お邪魔します…」と言って中に入ると、あたしの部屋よりも3倍ぐらい広い部屋で、思わず唖然としてしまった。

「こ…ここ、賃貸じゃない…っ!?」

ついそんな事を言ってしまったあたしに振り返って、ケイは、また、さっきのように綺麗に、そして可笑しそうに微笑う。

「どういう感想なの?それ?」

「え?だ、だって…ケイさんて、あたしと歳同じぐらいかなと思って…それで賃貸じゃないのって、すごいかも…って」

一体、何の仕事してる人なんだろ…この人?
それは、あたしの心に浮かんだ、とっても素朴な疑問だった。
でも、さっき会ったばっかりなのに、そんな事聴くのも失礼だと思うし、見た目からして、お水系かもしれないし、あたしは、質問の言葉を飲み込んで、図々しくもケイの部屋に上がりこんだ。

女の人の部屋にしては殺風景で、でも、インテリアはアジアンテイストでお洒落というかカッコイイと言うか、少なくとも、あたしの友達には、こういうコーディネートをする人はいない。
広いリビングにはハイビジョンテレビ。
ソファもテーブルもない。
ただ、素足で踏んだカーペットが、ふかふかで、これも高そうだな、なんてそんな事を思ってしまう。

「適当に座って」と言って、ケイはキッチンへ歩いていく。
あたしは、なんだかぼーっとしたまま、そんなケイの背中を見送っていた。
それから、部屋の中を見回して、ぺたんとその場に座り込む。
目の前の大きな本棚には、沢山の本。
その隙間に小さなカゴを見つけて、あれ?と目を止めた。

そこにきちんと整理されて入っているのは、都内の有名な大学病院の薬袋。
どこか、具合が悪いのかな…この人…
そう思いながら、あたしはキッチンのケイに視線を向ける。
ケイはあたしに背中を向けたまま、冷蔵庫から何かを取り出していた。

「あの…えと、なんにもいりませんから、すぐ帰るし」

あたしがそう言うと、ケイは振り返ることもなく、だけど笑いながら、こう言った。

「そんな遠慮しなくていいよ。ここ、結構色んなやつら来るから、食料だけは備蓄してあるし」

「お友達多いんですね~あたしの家なんか、誰もこないですよ。彼氏もこないし」

「寂しい身の上だな」

ケイは、嫌味じゃなくそう言って、可笑しそうに笑った。
でもあたしは、なんだか馬鹿にされてるような気がして、ついついむすっとしてしまう。

「とっても寂しい身の上ですっ」

「いつでも来ていいよ。来る者拒まず、去るもの追わずが、ポリシーだから」

「え?なんですかそれ?というか…あの、あたし、さっき知り合ったばっかりなんですけど…見ず知らずの相手にそんな事言っていいんですか?」

「見ず知らずじゃないじゃん、もう?隣のマンションに住んでる優子ちゃんだろ?変なオーラが出てる優子ちゃんだしな」

「え?!あ…あぁ、まぁ、そうです…ね。変なオーラは余計ですけど!」

「そっか」

レンジで何かを温めながら、ケイはまた、可笑しそうに笑う。

ほんとに変わった人だなぁ…
この人…
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