BitteR SweeT StrawberrY
        *
『あいつに何かあったら、連絡もらっていいか?』

佐野さんが、その言葉が、あたしの胸には引っかかってる。
一体、ケイに、何があるって言うんだろう?
あたしの心に、また、別の不安が広がっていく。
あたしにそう言った時、佐野さんの眼差しは真剣だった。
あの眼差しは、佐野さんが、今も、ケイのことをすごく大切に思ってるって証拠だと思う。
別れても好き、好きだけど別れた。
一体、どうして・・・あの二人は、別れることになってしまったんだろう。

知りたい・・・
でも、聞けないよね・・・
あたしは、あれほど真剣に、誰かに愛されたことってないかもしれない。
あたしも・・・
あんな風に誰かを、愛せるのかな?

帰りの電車の中で、そんなことをずっと考えてたあたし。
あたしが、ケイのお店に戻ったのは、午後1時を回った頃だった。
だけど、その時お店では、ちょっとした騒動が起こっていて、あたしは、お店の入り口で、ぽかーんと立ち尽くしてしまったのだ。

中にいたお客さんたちも、何事かとレジのほうを振り返っている。
レジには、真帆ちゃんがいた。
でも、真帆ちゃんは、真っ青な顔で固まったまま・・・そんな真帆ちゃんの向かいには、細身の中年女性が、高校生っぽい女の子を連れ、ものすごい剣幕で真帆ちゃんに怒鳴っていたのだった。

「こんな高い洋服を高校生に売りつけるなんて!ここはどういう店なの!?強引に売りつけるのがここのやり方なの?!押し売り!?
どうなの!?はっきり言ってごらんなさい!!」

あたしは、ハッとした。
真帆ちゃんには、人が怖いっていうトラウマがある。

こんな風に怒鳴られたら、真帆ちゃんは・・・

そう思ったあたしは、咄嗟に、レジに向かって走っていった。
同時に、フロアで別のお客さんを接客していたケイが、ゆっくりとした歩調でレジに向かって歩いてくる。
あたしは、がくがく震えている真帆ちゃんを背中に隠すと、精一杯の勇気を出して、怒鳴ってるおばさんの前に立った。
なんか、怖かったけど、おばさんに向かってこう言う。

「あの、申し訳ありません。他のお客さまのご迷惑になりますので、もう少し、声を小さくしていただけますか?あの・・・お話は、あたしがお聞きしますから!」

あたしの服を後ろからぎゅって、真帆ちゃんが握る。
言葉も出なくなって、真っ青になって震えてる真帆ちゃんを振り返って、あたしは精一杯笑ってみせた。
いつの間にかレジの隣に立っていたケイが、フロアの端にいる雛乃ちゃんに手招きする。
雛乃ちゃんは、ちょっと緊張した顔つきをしてケイのところに走ってきた。

「ヒナ、マホをヤードに連れてってやって」

ケイがそう言うと、雛乃ちゃんはこくんて頷いて、さっと真帆ちゃんの腕を掴むと、そのまま真帆ちゃんを連れて早足でストックヤードに歩いていく。

実は、あたしも足が震えている。
でも、あたしは、必死で強い表情を作って、怒り狂っているおばさんの顔をじって見つめすえた。
ケイがいるのに、でしゃばりかもしれないって思ったけど・・・
真帆ちゃんが、こうやって仕事できるようになるまでの苦労を知らずに、一方的に怒鳴りまくったこのおばさんが、なんだか許せなくて、あたしは、思わずこう言った。

「一体、どうなされましたか?くわしくお聞きしますので・・・」

あたしの隣に立っていたケイが、ちらっとあたしに視線を向ける。
あたしもケイを、ちらっと横目で見る。
ケイと目が合う。
何故か、ケイは、唇だけで小さく微笑んでいた。

『任せるよ、フォローはするから』
ケイの瞳が、そう言ってるように思えて、なんだかあたしは心強くなって、もう一度、まっすぐにおばさんを見る。
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