BitteR SweeT StrawberrY
女の子は、目に涙を一杯ためて、レジカウンターの上に投げ出されていた、コサージュ一杯の可愛いミニワンピを奪うように手に取って、ぎゅってそれを抱き締めて、ぽろぽろと涙を流し始める。
「可愛い・・・かったから・・・欲しくて・・・
でも・・・・どうせ、言っても買ってもらえないから・・・・
そんなの必要ないって・・・言われるから・・・
だから・・・」
自分の娘の口から、まさかそんな言葉が出るとは思ってなかったらしく、おばさんは顔を真っ赤にして、凍りついたように言葉を失くす。
女の子は、せきを切ったように、涙声でしゃべり始めた。

「毎日・・・塾ばっかりで・・・・勉強しなきゃって・・・そればっかりで・・・
友達も、あんまりいないし・・・全然、楽しくなくて・・・
ママは、勉強に、友達なんか必要ないって・・・言うから・・・
あたし、誰とも・・・仲良くしたらいけないんだなって・・・思って・・
でも、お洋服ぐらいは・・・欲しいって・・・」

「うん、そっかぁ・・・そのワンピ、可愛いもんね。欲しくなっちゃうよね」

あたしはうんうんって頷いて、にっこり笑ってみせた。
くすんくすんて泣きながら、女の子は、少しだけ声を大きくして言葉を続ける。

「可愛いから・・・欲しかったの・・・っ
友達作ることを諦めてるんだから・・・お洋服ぐらい・・・諦めなくていいよねって!
そう・・・そう思って・・・っ
あたし、一所懸命・・・バイトしたんだよ!
カラオケ屋さんで!人付き合い苦手だったけど・・・頑張ったの!!
ほんとに頑張って!やっと・・・・これ・・・あたしのものになったのに・・・っ!」

おばさんの顔が、いきなり鬼の形相になった。
あたしは、思わずハッとする。

「あなた・・・!私がこれだけあなたのこと考えてあげてるのに!
どうしてわたしを裏切るのよ!?
お父さんだけじゃなく・・・あなたにまで裏切られるなんて!!」

そう怒鳴ったおばさんが、いきなり手を振り上げる。
この子、殴られる!と思った瞬間、ふりあがったおばさんの手首を、ぐいってケイが掴んだ。
ケイは、すごく冷静な顔つきをして、おばさんにこう言う。

「この子は、あなたとは別人格なんですよ?お気づきになりませんか?」

その言葉に、おばさんはハッとして、ものすごい顔でケイを睨んだ。
ケイは、ひるみもしないで、至って冷静で落ち着いた声で言葉を続ける。

「今まで、娘さんは、口答えすらしなかったんでしょう?
あなたにどれだけ気を使っていたか、あなたは、おわかりになりませんか?
娘さんは、あなたを裏切ったんじゃない、少しだけ、自己主張しただけだ。
うちは相談所じゃないんで、立ち入ったことはお聞きしませんが。
あなたの娘さんは、立派ですよ。
欲しいけど買えないからって、安易に万引きしていく子もいるのに、あなたの娘さんは、ちゃんと働いて、ちゃんと代金を支払って、うちの品物を買っていってくれた。
それは、あなたが、娘さんをしっかり育ててきたっていう証拠ですよ」

「っ!?」

おばさんの顔が、驚いたような顔に変わったと思うと、その手がぶるぶると震え出す。
ケイは、にっこり笑って、言葉を続ける。

「あなたが育てた娘さんは、立派な娘さんです。
そんな立派な娘さんに、うちの服を気に入ってもらえて、とても嬉しいですよ」

わなわなと体を震わせたおばさんが、突然、目に涙を貯めて泣き出した。
マスカラが落ちて、痩せたほっぺに落ちる涙は真っ黒だった。

きっと色々、家庭に事情がある人なんだろうなって、あたしはそう思った。
おばさんは、レジの上に放り投げてだった、このお店のロゴ入りの紙袋を無言で取ると、娘さんが抱えているワンピをそっと取って、それを綺麗にたたんで、袋の中に入れた。
そして、あたしとケイに、深々と頭を下げると、娘さんと一緒にお店を出ていった。

「・・・・・・・」

あたしは、ふぅって大きく息を吐いて、ふと、隣にいるケイを見る。
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