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   *
その後、お昼から戻ってきた新城さんが、あの騒動の話を雛乃ちゃんに聞いたらしく、ストックヤードにいたあたしの所に顔を出してくれた。

「優さん、お疲れ。なんか、カッコイかったんだって?ヒナちゃんに聞いたよ!」

「いやいやいや、全然…ケイのがカッコイかったですよ」

あたしは、何だか照れまくってそう答えると、新城さんは笑った。

「たまに妙なクレームつけてくる客いるけど、しょっちゅうって訳じゃないから。
あ、もうちょい、マホちーのこと看ててやって。フロアは大丈夫だから」

「はーい」

あたしがそう答えると、新城さんはまたにっこり笑って、フロアに戻って行った。
あたしはちらっと、つぶした段ボールの上に横になってる真帆ちゃんを見た。

「事務所のソファの方が、寝心地いいんじゃないの?」って聞いたんだけど、「薄暗いほうがいい」って真帆ちゃんが言うから、そのまま、寝かしてあげることにした。
真帆ちゃんは、あたしのコートを頭からかぶって寝てる…
ショックなことがあると、真帆ちゃんはこうやって、ストレスを分散させるらしい。
そろそろ、真帆ちゃんのお姉さんが、車で真帆ちゃんを迎えにくるはず…。
心に傷のある真帆ちゃんが働くのは、きっと凄い苦労があるんじゃないかって、あたしは勝手にそう思う。
それでも頑張って働いてるこの子は、ほんとに偉いし、大人だなって思う。
そう思うと、ちょっとのことでヘコんだりしてるあたしの方が、全然、子供なのかも。

情けないなぁ…
あたし…
あたしはそんな事を思いながら、段ボール箱を開けて、伝票と中身を確認する作業を続けた。
ふと、腕時計をみると、あと少しで3時。
バイト…
もう終わる時間かぁ…
何だか残念だな…なんて思ってしまうあたしがいる。
その時、ぎ~って音がして、ストックヤードの扉が開いた。

あたしは、ハッとしてドアを振り返ると、そこにケイが立ってた。
あたしは、無駄にドキッとして、ちょっと顔を赤くしてしまう。

「お、お疲れさま!」


「お疲れ。さっきの優子は、すごかったな。一瞬、誰だこいつ?って思ったよ」
ケイは、なんだか愉快そうに笑って、ゆっくりと、あたしの隣に立った。
あたしは、思いっきり照れてしまって、ますます顔を赤くして、変な愛想笑いをしてしまう。

「あ、あたし、何にも…ケイのがすごいと思う。
なんか、あんなに怒ってた人、黙らせちゃったり。
あたしには、あんな言葉、絶対、出てこない…」

ケイはくすくすと笑って、猫でも撫でるみたいに、あたしの髪を撫でると、横になってる真帆ちゃんの所に歩いて行った。
ケイは、座り込むようにして、真帆ちゃんが掛けているコートをめくると、すごく優しい顔をして、寝てる真帆ちゃんにこう言った。

「マホ?姉ちゃんが迎にきたぞ、起きろ」

真帆ちゃんは起きない。
あたしは、ケイの隣に座り込むと、真帆ちゃんの肩を揺すってみた。

「真帆ちゃん、お姉さん来たってさ。起きて~」

でも、やっぱり真帆ちゃんは起きない。
その様子を見てたケイが、何か思いついたようににやって笑うと、なんだかとっても愉快そうな表情をして、真帆ちゃんの耳元に唇を寄せる。
あたしはぎょっとして、意味不明にその場であたふたしてしまった。

「ちょ、ちょっと!?ケ、ケイっ?!」

ケイは、動揺するあたしの横で、くすくすと笑いながら、真帆ちゃんの耳元てこう言った。

「マホ…ちゃんと起きないと、お疲れちゅーしてやらないぞ」

「ぶ!ちょっとケイっ、な、何言って…」

そう言いかけたあたしの目の前で…
もぞもぞって動いて真帆ちゃんが、いきなりムクッて起きあがる。

「え!?」

あたしはきょとんとして、まじまじと真帆ちゃんを見つめてしまった。
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