犬との童話な毎日

「ねぇ、寝転がったら?」

刺々しい響きの声に、一瞬お母さんかと思った。
けど、違かった。
振り返って見ると、沙月ちゃんがベッドの上から冷たい目でこちらを見ていた。

「あなた絶対安静でしょ?座っていたらお腹張って赤ちゃん、苦しいよ」
「……はい」

小さく返した返事に、違和感があった。
ぴたり、と袖口をいじるのをやめる動作にも。
のそり、と寝そべる彼女を見る。
ぼんやりと天井を見るその瞳。

そうか、と思った。

「あなたが望まないからだ」
「は?」

ぽかん、とするお母さんを退かしてお嫁さんのベッドに近付いて。
布団越しのお腹の膨らみを見下ろす。



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