犬との童話な毎日
あたし、人生を語れる程経験なんてしていないし、正義感が強い訳でも無いし、この人に対して何の責任も関係も無い、通りすがりのただの女子高生だけど。
「……ねぇ、ホントに赤ちゃんに会いたくないの?
このままじゃ赤ちゃん、そこから居なくなっちゃうよ」
居なくなってしまったらもう二度と会えないのを知っているから。
言わずにはいられなかった。
だって今お腹に居る赤ちゃんは、後でまた妊娠したって、それは別の子のはずでしょう?
「六花……」
お母さんの呟く声を背中に、あたしの目はお腹に芽吹く葉を見ようと。
生命の宿る膨らみに目を凝らし続けていた。
黒曜にしか見えない、命の形を見ようとして。