犬との童話な毎日
あたしの足音が微かに響く、昼間でも人通りの少ない入り組んだ裏道。
近隣の住宅から漏れる灯り。
さりげなくライトアップされていて石造りの塀に、大木が影になって映っているのが見えた。
そして仄かな灯りに照らされて、白い花が浮かび上がる。
大きな石も陰影で、昼間に見るのとは何か違く見える。
ここだけ隔離された、日常とは別の空間の様な気さえする。
夜の桜は、怖いくらいだった。
「ねぇ」
返事が無くて、茶色い毛玉がちゃんとそこに居るか横目で確認してしまう。
黒曜は少し離れた所でちょこん、と座っていた。
「なんか……綺麗過ぎるんだけど、どうしよう」
夜桜なんて初めて見たからかな。
怖い位綺麗って言葉、こういう時に使うんだよね、きっと。
『何がだ?』
「何がどう、って訳じゃないんだけど……あたしが呼吸するだけで壊れちゃいそう」