犬との童話な毎日
自分でも何を言っているのか良く分からなかったけど、黒曜はもう問い返さなかった。
『……お前の様な無力な小娘が見ている位では、この木が壊れたり穢れたりする事など無い。
満足行くまで眺めればいい』
いつも通りの面倒臭い言い方。
だけど、何だかいつもと違う気がする。
あたし、この雰囲気にやられてるのかな。
清らかな夜の空気に。
ぼー、と立ち尽くすあたしの横を、黒曜が通り過ぎてそのまま枝垂れ桜に歩み寄る。
『……まぁ小娘の気持ちも分かるがな』
あたしの腰の辺までありそうな大岩を、枝垂れた枝が優しく撫でる様に風に揺れる。
その前で黒曜が立ち止まった。
背中がなんだか小さく見えて、思わず名前を呼びそうになった。