犬との童話な毎日
茶色い体が夜に溶けていきそうで。
「……まだまだ咲くかな」
『……そうだな、もうしばらくはな』
夜の空気はまだまだ冷たくて、でもそれも気持ち良かった。
息を吸い込んで、ゆっくりと言葉と一緒に吐き出した。
「……あたしさ、弟が居るはずだったんだ」
そっと出した言葉達は、そっと黒曜に届いただろう。
吐く息すら、桜の花を散らせる一因になりそうな気がして。
「……8歳の頃。
嬉しくて嬉しくて。
あたし、友達に自慢したの。
弟が産まれるんだ、って」
お母さんのお腹を毎日触らせてもらった。
毎日話し掛けた。
男の子だ、って聞いた時には名前を考えた。
クラスで一番人気のある男の子の名前を、少しアレンジしたものだったけど。