犬との童話な毎日

「これね、赤ちゃんの心臓の鼓動なの」

沙月ちゃんが教えてくれた。

昨日の夜、軽く陣痛が始まった沙月ちゃんは、点滴を打たれていた。
セイキザン?だかっていう、いつ産まれても大丈夫、っていう時期が来るまでは、入院するんじゃないかな、って苦笑い。
今赤ちゃんを産んじゃうと、早産になっちゃうらしい。

「あと三週間位なんだけどねー」

と、お腹の赤ちゃんの鼓動を聞きながら、少し笑った。
少し雑談をしてから、あたしは椅子から腰を上げた。

「沙月ちゃんどうせヒマでしょ?
また来るからね」

安静第一で、寝転がったままの沙月ちゃんとお腹に向かってバイバイして病室を出た。





そして、数分後。
いつも使わない道をあたしは歩いたんだ。
何が始まるのか、なんてこの時のあたしは残念ながら知らなかった。
もしこの時、これから始まる事を知っていたら、違う道を選んでいたのかな。



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