犬との童話な毎日

***

すうううぅぅっ、と大きく息を吸ってみる。
あ、れ?

さっきまで香っていた春の匂いがなくて、ふかく深く吸い込む。
もっともっと。

「……っ、ごほ……っ、ごほごほっ」

……むせた。

苦しくて、上半身を慌てて起こす。

『……何してるんだ』

ごほごほと、涙を浮かべながら咳き込んでいると、抑揚の無い声がした。
この若干、馬鹿にされている気にさせられる喋り方をするのは。

「な、あ……っごほ」

口元を抑えて、喉の調子を整えろうとしているあたしの足元。

『小娘にしては、早起きだな』

ああ、さっきまでのは夢か。

薄暗い部屋よりも、色濃い塊があたしの足元に寝そべっていた。
尻尾がゆらり、と揺れる。
耳は垂れているし、前脚に顎を乗せていて完全に寛いだ姿勢だ。

「……おいこら」
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