犬との童話な毎日
蕾
沙月ちゃんが入院している産婦人科を出て直ぐの、裏小路に足を踏み入れる。
普段歩かない道。
小学生の頃に何回か道草した事があったから知ってる位で、使う必要も無い道だったから。
何となく懐かしくて、思い出す様にゆっくり歩いた。
もう4月なんだから当たり前なんだけど、ふ、と春の香りがした。
風に乗って暖かい春の匂い。
その匂いに誘われて向けた視線の先には。
石造りの塀に掛かって、桜が揺れていた。
とにかく大きくて。
もしかして二階建ての我が家よりも大きいかもしれない。
あまり多くは無いけれど、枝ぶりからもこの枝垂れ桜の歴史を感じさせた。
いや、少し濃い色だから桃とかだったりするのかな?