犬との童話な毎日
外で黒曜と話す時はいつも囁き声だ。
ここも周囲に人は居ないけれど、一応住宅街。
不審な頭がおかしい女子校生がいる、だなんて目では見られたくない。
あたしだって化け犬が取り憑いている以外は、普通の。
花の女子高生なのよ。
『沙月の腹の子、今日は指をしゃぶっていたぞ』
「へー、便利な目だね、それどうなってんの?……まさかあたしの服の中まで見えるとか言わないよね」
『そうだとして、便利な目だとはとても俺には思えんがな』
制服のスカートが風に揺れる。
振り返っても、もうそこには揺れる紅色はなくて。
それでも桜の匂いをまだ感じた気がした。
黒曜の後ろを歩いて家へと帰る、夕方。