犬との童話な毎日
写メ、撮ろうかな。
ポケットに入れたままのスマホをごそごそと取り出して、レンズを枝垂れ桜に向ける。
スマホの画面に映った桜は、肉眼で見たのよりも色褪せていた。
シャッター音が響いたのは一回だった。
石造りの塀に。
大きな岩に。
それに掛かる枝垂れた桜の色に。
苔むした地面。
目の前の光景が、美し過ぎて泣きそうだった。
だから唇から言葉が溢れたんだ。
「……綺麗。
妖精でも棲んでそう……」
ホントに微かな声で。
でもその瞬間、突然の強い風にあたしの声は吹き飛ばされた。
咄嗟に腕で顔を庇う。
ざあ、と言う雑音と突風に体が包まれた。