犬との童話な毎日

風の中。
声がした気がした。
でも良く聞こえない。

何?
何て言っているの?

突然吹いた風は、突然止んだ。
瞑っていたらしい目をゆっくり開けて。
庇っていた腕を下ろす。
そのまま目に飛び込んで来た桜の木に。
動きを止めた。

大きな桜の根元に、大きな犬がいた。
先程まではそこには居なかった筈なのに。

ふさふさの耳は、ぴん、と立ち。
ふさふさの尻尾は、ゆらん、とただ一回揺れて。
地面を踏み締める四本の足は、今にも走り出しそうに見える。
そして。
あたしをじっ、と見る黒い目。


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