犬との童話な毎日

***

はっ、と目を見開く。
どくどくと忙しく脈打つ心臓に体が震える。

見開いた目に、さっきまであった木が見えない。
無数の葉の向こう側に見えていた、薄曇りの空が見えない。
目の前で揺れていた紅色の花が無い。

あたしは汗ばんだ額に手をやりながら、ゆっくりと体を起こした。
深呼吸して震える手を握ったり開いたりして心を落ち着ける。

「あー……ホント最悪。
何なのもー」

クリーム色の壁や天井。
自分の居る場所を確認する様に、辺りを見回して。
いつもの見慣れた自分の部屋であたしは悪態を付いた。


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