犬との童話な毎日
視界が歪み、辺りが少し暗くなる。
立ちくらみに似た感覚だ。
体が、手が、支えを欲しがった。
一瞬、強く目を瞑ってから、開いた目には。
枝垂れた桜の枝。
犬から逃げている間に、何時の間にか桜の木まで来ていたみたいだ。
ぶれる視界が、直ぐに焦点を合わせた。
「……うわっ」
桜の花達がカーテンの様に目の前揺れて、その向こうから犬があたしを見ている事に気付いた。
ち、近いっ。
もしかしてあたしって何か美味しそうな匂いでもしているのか。
お昼何食べたんだっけ?
頭の片隅に過るのはそんな事で。
桜の幹に縋り付く様にして、あたしは唾を飲み込んだ。
犬の黒く光る目から目を反らせない。