犬との童話な毎日
「えー、でも何もないよ。大丈夫」
きょとん、としながら返すあたしに、沙月ちゃんが気のせいかも、と笑った。
……でもさ、あれ?もしかして。
ああ、もしかして黒曜のことかも。
そう思ったのは沙月ちゃんとばいばいをして、病院を出て、裏通りに足を踏み入れた時だった。
触ればひんやりとしそうな石造りの塀。
少し薄暗い裏通り。
人の気配を感じない、静けさ。
ここに来ると、いつも気持ちがきゅっとする。
空気が澄んでいる気がする。
それは角を曲がった時の方が、顕著な感覚なんだけれども。