犬との童話な毎日
『…………また来年も咲くさ』
「……うん、そうだね」
もう匂い立つような桃色の花はそこにはなくて。
そこにあるのは、苔生した地面と、枝垂れた枝がゆっくりと撫でる大岩。
そして、その大岩に座って木を見上げている、犬の姿の黒曜だった。
何だか桜の木に寄り添うように座るその光景を、写真に収めたくなった。
スカートのポケットに手を突っ込んで、少し考えて、やっぱりやめた。
黒曜が写メに入り込むか、疑問だったから。
それよりも見ていよう、と思った。
この風景を。
この時間が止まったかのような、あたしのお気に入りの場所に。
あたしにしか見えない化け犬が加わっているという、不思議なこの風景を。