犬との童話な毎日

すう、と黒曜の形の良い唇が息を吸うのを、じっと見つめる。
小娘、とその唇があたしを呼んだ。

「お前…………」

手が伸ばされた、と思ったら。

「むあっ……」

ぎゅむ、と長い指で左右の頰を潰された。
突然の事に目を見開いて、距離の近い黒曜を見返す。

「お前、腹立つな」

あたし……思考が追いつかないと言うか、錯乱してる。
はっきり言ってぐちゃぐちゃだ。

……だって!
人の姿になってる時に、黒曜に触られたのは初めてだな、とか。
体温はあるんだ、とか。
こんな拗ねたような表情もするんだな、とか。
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