犬との童話な毎日
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『……面倒だな』
放課後の廊下で、ふと黒曜が足を止める。
ゆらゆら揺れていた尻尾がぴたり、と止まるのは、黒曜が何かに気を取られている時のサイン。
悠と高城が、つい足を止めてしまったあたしを不思議そうに振り返る。
「どうしたの?」
「え。……さあ」
さあ、どうしたんだろう、知らない。
当たり前のように答えようとして、口を閉じる。
この二人が聞いているのは、あたしの足が止まった理由であって、黒曜のことじゃない。
部活に向かう生徒と、帰宅する生徒が黒曜の体を擦り抜けていく。