犬との童話な毎日

「……ううん。呼ばないよ」

さっきの悪態は声に出してないもんね。
あたしから黒曜の名前は呼ばないって決めてるんだから。

ふん、と興味無さそうに目線を逸らす黒曜を
じっと見ていると、不意に視界の隅にちろちろと動くものが見えた。

「……うわ……」

それが何だ、と頭で考える前に反射的に飛び退ってしまう。
黒曜のことを毎日見ていて、慣れた気がしていたけど。
まだまだだったらしい。

白い毛玉が尻尾を振って、あたしを見上げているのを見て、反射的に飛び退ってしまうくらいには。
やっぱり犬は苦手。

よたよたと黒曜の乗るコンクリートの裏に回り込んで、子犬との距離をとる。
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