犬との童話な毎日
黒曜から視線を外して目の前を見てみれば先程と変わらず、緩やかな踊りを舞うように、文字達が揺らめいている。
ひらひらと。
昼間に教室で見た時は、驚き過ぎてこんなに冷静に観察出来なかったけれど。
「……あたし虫ってどっちかって言うと嫌いなんだけどさ。ほら、ハエとか蚊とかうっとおしいし」
『字虫をハエや蚊と一緒にするな』
「でもこれは嫌いじゃないな」
はた迷惑だけど、空中に舞う文字達は何だか綺麗に見える。
裏返ったり、時折形を歪めたり、ひらひら回ったり。
気持ち良さそうに揺らめく文字達は、何だか気持ち良さそうに見える。
字虫を飽きる事無く見つめていて。
気付いたら、黒曜の姿はもう夜の窓辺には無かった。