犬との童話な毎日
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ウィーン、と背後から自動扉独特の音がして、無意識に振り返る。
緩く膨らんだお腹に片手を添えながら、髪の長い女の人が出て来てあたしの横を通り過ぎて行く。
産婦人科の入り口の脇の壁に寄り掛かりながら、あたしはその妊婦さんの背中を見送った。
妊婦さんに幸福の匂いを、無条件に感じてしまうのは何でなんだろう。
この人だって望んだ妊娠じゃないかもしれないのに。
心の中じゃ、何を考えているのかなんて分からないのに。
望んでも産まれて来れない子達も居るのに。
ぼんやりと考え事をしていたからだろう。
待ち合わせの相手が目の前に来るまで、気付かなかったのは。
「六花、早かったじゃない。お待たせ」