犬との童話な毎日
そのお母さんが一つしか見当たらない見舞客用の椅子に勝手に腰掛けた所であたしは待ったをかけた。
「ちょっとー、座っていい?位は普通聞かない?」
「あぁ、そうね、沙月ちゃん座ってもいいかしら?」
「そこはあたしに聞くとこじゃない?」
「六花は若いんだから立ってなさい。
お母さん疲れてんのよ」
「あたしだって学校行って……ってそんな話しをしているわけじゃ無くてさ」
黒曜が耳を立てて沙月ちゃんの足元に座っているのを見て、口をつぐむ。
黒曜の目が白いカーテンの向こう、隣のベッドを見ていたから。
「りっちゃん、親子で椅子の取り合いなんてしなくてももう一つあるから」
そこにあるよ、と点滴の刺さった腕で足元を指差す。
視聴覚室とかにありそうな台がベッドに付けらてれて、その下に一つ丸椅子があったからそれに座る。