犬との童話な毎日
「ねえ、隣の人、最近元気?」
黒曜に話し掛けた訳じゃないのに、黒い毛玉が振り返る。
何故か呆れ顔なのが分かる。
犬だから表情なんてあまり無いような気がするのに。
「六花、隣の妊婦さん知り合いなの?」
「全然知らない」
はあ?と首を傾げるお母さんの声に被さって、先程のあたしの問いに先に答えたのは黒曜だった。
『弱くなってる』
「至れり尽くせりしてもらって、うらやましいわー」
そして、嫌な響きを含んだ声。
その声は、白いカーテンを隔てた、隣のベッドから聞こえた。
「ねぇ、いつ退院するの?
なんならあたしから看護婦さんにきいてみてあげましょうか?」
沙月ちゃんが重たい溜息をつく。