お蔵入り書庫
 
 バレンタインデーの日。

 中学からずっと同じクラス、同じ部活に所属している弓香から、俺がチョコレートを貰ったのを切っ掛けに成都の気持ちを知り、勢い余って告白。

 そして、俺と成都はどうにか恋人という関係に収まった……訳で。


『──先日行われた陸上記録会にて、陸上部所属の、2年3組、萩原清治[ハギワラキヨハル]くんが見事3位入賞。来週の朝礼で表彰されます──……ん?』


 ……ん?


『──あ。清治おめでとー。さすがは俺の親友だね。次は俺の為に1位取ってきてね。えー……と、学校からの連絡は以上です!』


 ……あ、の……ッ、馬鹿!!

 全校放送で、何てことを……ッ!!


『それでは最後に、2年8組、坂本真理チャンからのリクエスト曲を──』


 スピーカーからは軽快な音楽が流れ、教室内にはいつもと変わらない喧噪が広がっている。

 成都のあんな発言を気にするヤツなんて、ここには居ない。

 居ないけど……!

 全校放送で、アレは、いくら何でも……!!


 机に突っ伏して、もやもやする気持ちをどうにか堪えていると、誰かが近付いてくる気配がした。


「"俺の為に1位取ってね"」

「うわっ!?」

「耳まで真っ赤ね」

「……弓香」


 弓香は、俺と成都の関係を知っている唯一の人物だ。

 そして、弓香は俺を──好きだった。 


 弓香は、俺と成都の気持ちを知っていて。

 成都は、弓香の気持ちを知っていた。


 軽く三角関係ってヤツだったのを俺は全然気付きもせず、勿論、チョコを貰っても弓香の気持ちに気付けなかった。

 俺には、成都しか見えていなかったから。

 弓香に対して、友達としても男としても、酷いことをしていたんだと漸く気付いた。

 だけど弓香は、そんな俺の気持ちを後押ししてくれた。

 弓香のお陰で、俺と成都が恋人同士になれたと言っても過言じゃない。
 
< 4 / 20 >

この作品をシェア

pagetop