お蔵入り書庫
 
「どうせなっちゃんの事でも考えてたんでしょー?」

「煩いな、放っとけ」


 俺の肩をつつく弓香から顔を背けて視線を窓の外にやる。

 大して何が見えるでもない景色は、寒空ばかり見えていた。


「清治!」


 愛しい声に呼ばれて、俺は反射的に顔を動かす。

 水色の紙袋を持った成都が、教室に駆け込んできた。


「もー、すっげー腹減った!!」


 訴えるように言いながら、成都は俺の前の空いている他人の席に座る。

 そんな成都の前に購買で買ってきた弁当とパックのジュースを差し出すと、表情が一気に明るくなった。

 ころころと表情を変える成都は、見ていて本当に飽きない。


「なっちゃん、その袋はどうしたの?」


 弁当に夢中になっている成都に、弓香が声を掛けた。

 細い指で、俺の机に置かれた紙袋を指さしている。


「1年生の子がくれたんだよ」

「出待ちの子ね」

「腹減り過ぎて名前聞きそびれちゃったけど、可愛い子だったよ」

「ふーん。可愛かったんだ?」


 くるりと成都から俺に視線を移した弓香は、意味深な表情で腕を組んだ。


「可愛い子だったって」

「……だから何だよ」


 何か別の事を言いたいのが伝わってくる笑顔が、少し怖い。


「別にー? 清治も大変だな、って思っただけ」

「弓香、俺の清治で遊ばないで」

「なっちゃんよりもあたしの方が清治との付き合い長いのよ? 勝手に所有化しないでくれる?」

「付き合いの長さなんて関係ないよ。俺と清治は……」

「──成都!!」


 成都が何を言おうとしたのか分かったから止めた、というよりも、反射的に声が出てしまっていた。

 こんなところで『俺と清治は付き合ってるんだから』とは言わないだろうが、相手が弓香ともなれば成都の気がゆるんだっておかしくない。


「清治、何焦ってんの?」

「いや、別に……」


 俺が口ごもると、成都は、ずい、と身体を前に出して声を潜めた。


「いくら弓香にムカついたからって、俺、清治が困るようなことは言わないよ?」

「なっちゃん、あたしには全部聞こえてるんだけど」


 腕を組んで仁王立ちになっている弓香に、俺も成都も、一瞬背筋が寒くなった。
 
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