風の詩ーー君に届け
自分で自分の限界を思い知らされた――ような気分だ。


もう飛べない。
お前はどこへも飛べない


才能とか運命とか、希望とか―――そんな言葉が遠く感じらる。



「選択肢はない」



そう告げた、主治医の言葉が情け容赦なく、胸を抉る。


涙さえも出ない。




主治医の説明を聞く隣で声を殺し、涙を抑える母を僕は慰めることも気遣うこともできなかった。




「貴方はローレライよ」



叫んだ妹尾さんの言葉。




ああ、そうだ。
僕はローレライに魅入られてしまったんだ。


そう思った。



何もかも忘れるくらいにヴァイオリンを弾きたい。




何も考えられないほどヴァイオリンを弾いていたい。



そう、思っていた。



< 102 / 372 >

この作品をシェア

pagetop