風の詩ーー君に届け
「大丈夫か」



理久と安坂さんが病室を訪れたのは、倒れた日の翌日。



緒方が帰った後だった。




外は、本降りの雨。



窓硝子を叩きつける雨は、恐いくらいに激しかった。



こんな日のライン河は、氾濫し船も難破したり遭難したりするのだろう。


ローレライが暴れているだろう。



そんなことを考えていた。



「ローレライって言われたこと気になってるのか」



理久が僕の顔を覗きこむ。



「別に……そう言われたことは今回が初めてではないから」



曲の解釈が、いつも何処か違っているのか――僕の演奏は型破りだと言われることが多い。



コンクールの優勝候補者が、僕の演奏の後に調子を崩し、自分の演奏ができなくなり予選落ちしたなんて話を幾度か聞いている。


< 103 / 372 >

この作品をシェア

pagetop